更新日:2017年07月20日
脳梗塞とは
脳梗塞というと、高齢者の病気というイメージがありますが、最近では生活習慣や食生活の乱れにより、若い人にも発症しています。
脳梗塞とは、どのような病気なのでしょう?まず、脳の病気は大きく分けて二種類あります。
- 脳そのもの(脳実質と言います)の病気
- 脳に栄養を送る血管の病気
脳の血管の病気のことを脳血管疾患といい、脳出血・脳梗塞・クモ膜下出血・脳血管性認知症・脳動静脈奇形などが主な病気です。
脳血管疾患の中で最初の3つを脳卒中といい、これを更に出血性と虚血性に分けて分類します。
脳卒中の分類
- 虚血性(血管がつまる)・・・脳梗塞
- 出血性(血管が破れる)・・・脳出血・クモ膜下出血
ちなみに、脳卒中というのは、“突然倒れる脳の病気”という意味です。脳梗塞も脳出血も、突然起こる病気です。(場合によっては前兆となる症状もあります。これについては、症状のところで詳しく説明します。)
脳梗塞の原因
では、脳梗塞はなぜ起こるのでしょうか?
脳梗塞は、脳卒中の中の「虚血性」に分類されてます。
「虚血」は、血が足りないという意味で、血管の中で血の塊が詰まることによって、血液がうまく流れなってしまうのです。
脳梗塞には発症の原因から、3つのタイプに分類されます。
発症原因による3つのタイプ
- 1. 血がドロドロで固まった - アテローム血栓性脳梗塞
- 2. 血流に澱みができて、血が固まった - 心原性脳梗塞
- 3. 細い血管が流れなくなった - ラクナ梗塞
1. 血がドロドロで固まった(アテローム血栓性脳梗塞)
これは、脂質異常症(高コレステロール血症)や糖尿病・高血圧によって血管の内腔にアテロームといってコレステロールの塊でできたプラークがへばりついて狭くなっている人に起こります。
このアテロームで狭くなったところを血液が通り、流れが悪くて血栓ができてしまいます。そこでできた血栓が一度は剥がれて別のところで詰まるのが、アテローム血栓性脳梗塞です。
2. 血流に澱みができて、血が固まった(心原性脳梗塞)
これは、不整脈の一つである心房細動という病気によるものが一番多くなります。
心房細動というのは、心臓が不規則に脈打つ病気です。規則正しく拍動しないため、血管の中で血液の澱みができてしまうのです。
人間の身体は、出血に対する防御機能として、血液が固まる力があります。そうでないと、ちょっと怪我をしただけで大量に出血してしまいます。この固まる力と血流の澱みが重なると、血栓が作られます。
心房細動と血液凝固能が関連して血液が固まり、それが脳にとぶことで心原性脳梗塞が起こります。メカニズムとしては、次のような順番で脳梗塞が発症します。
心原性脳梗塞が発症する流れ
- 血液の流れが悪い
- 澱みができる
- 澱んだ部分の一部の血が固まる
- 血栓ができる
- 血流にのって、血管内で血栓が漂う
- 脳の血管内にはまってしまう
- 脳梗塞を発症する
3. 細い血管が流れなくなった(ラクナ梗塞)
これは、脳の血管の中でもとても細い「穿通枝」と呼ばれる血管が詰まってしまった状態です。
とても細い血管なので、脳の栄養の大部分を担っているわけではありません。無症状のこともありますが、ここから梗塞範囲が広がることもあります。
隠れ脳梗塞
また、1~3を起こしているのに無症状で経過していることがあり、これを「隠れ脳梗塞」といいます。
特に3のラクナ梗塞で起こりやすいのですが、高齢者では1のアテローム血栓性脳梗塞や、2の心原性脳梗塞が原因であっても、気づかないことがあります。
別の症状で受診してMRIやCTを撮影したときに古い脳梗塞を発見されることが多く、この場合画像上所見があるだけで、本人は気づいていません。
脳梗塞の症状
脳梗塞を起こすと、様々な症状が出ますが、主なものは以下の通りです。
- 片麻痺
片方の手足が動かない。 - 感覚障害
麻痺を起こした部分に、触っている感覚がない。 - 呂律(ろれつ)不全
うまくしゃべれない、呂律がまわらない。 - 失語
言葉が出ない(運動性失語)、意味不明なことを話す(感覚性失語)。 - 意識障害
身動き一つしない状態もあれば、おかしなことを言うくらいの程度もある。
ここにあげた症状は既に脳梗塞を発症しているときの症状です。そうなる前に気づいて防ぐことはできないのでしょうか?
実は、これらの症状を起こす前に、前兆となる症状を起こしていることがあります。
この時点で急いで病院にいって治療を受けると、その後の後遺症を軽くしたり、命を落とさずに済んだりする可能性が高くなります。
では、脳梗塞の前兆をチェックしてみましょう。
脳梗塞の前兆
- 手がしびれる。
- 食事の時に、箸または茶碗を落とす。
- 字がうまく書けない。
- 家の鍵がさせない。
- 片方の口がゆがんで、涎が垂れる。飲み物が片方の口の端からこぼれる。
- 言葉を発しようとしたのに、一瞬出てこなかった。
- めまいがする。
- 頭痛がする。
- 物が二重に見える。
こういった症状が1度出て2~15分以内に改善された場合は、TIA(一過性脳虚血発作)の可能性があります。
これは一時的に血流の流れが悪くなったものの、すぐにまた流れがよくなって、症状も消えてしまうものです。
この段階ですぐに治療をしておけば、大きな脳梗塞を防ぐことに繋がります。
逆に、この前兆症状に気づいたときには、既に脳梗塞が始まっている場合もあります。
いずれにせよ、これらの症状に心辺りがある場合、仮にTIAだったとしても、安心できる状態とはいえません。
脳梗塞の後遺症・合併症
脳梗塞は、発症した血管の場所や発症してから治療までの時間、それからもともとの基礎疾患によって、初期症状も後遺症も違います。そして、脳梗塞における合併症というのは、言い換えれば後遺症によるものとなります。
具体的な後遺症・合併症
- 視野障害
視界の半分が認識されない。 - 言語障害
言葉をうまく発音できない、呂律不全。 - 運動障害
片麻痺、関節が固まって動かない(関節拘縮)、関節の脱臼、褥瘡の発生。 - 感覚障害
麻痺した部分の感覚が鈍い・感じない、しびれ。 - 高次機能(人間らしい行動)障害
認知症
失語-運動性失語、感覚性失語
失認-ものごとを理解できない
失行-どう行動したらいいかわからない - 排泄障害
尿が出せない(尿閉)、頻尿、尿路感染症による発熱。 - 嚥下障害
うまく飲み込めない、むせる、肺炎。 - うつ状態
脳梗塞を起こした患者さんは、急性期を過ぎた後の後遺症・合併症の状態で、その後にかかりやすい病気などが変わってきます。どのような後遺症が出るかによって寿命にまで影響が及びます。
たとえば、嚥下障害がある人は、誤嚥性肺炎を起こす可能性が高く、肺炎によって呼吸状態が悪化して亡くなることがあります。
軽い後遺症程度なら自宅へ帰って社会復帰を果たすこともできますが、重度の場合は完全な寝たきりとなり、家族だけでは介護しきれなくなってしまうこともあるでしょう。
そして、この後遺症をできるだけ軽くするために、早期からリハビリを開始します。
リハビリについて
リハビリは段階に応じて始めていきます。まずは病気自体を安定させることが重要で、その後に少しずつリハビリを始め、徐々に歩行訓練なども行っていきます。
- 急性期
血圧の変動に注意して、まずは関節拘縮(関節の曲げ伸ばしが困難になること)の予防をします。 - 回復期
できるだけ身体を動かし、運動療法と作業療法を交え、必要があれば言語療法も取り入れます。これによって、日常生活に必要な動作ができるようになれば、自宅への退院が可能になります。 - 自宅や施設に移ったあと
現状の機能を維持するためのリハビリが必要になります。
人間は、身体を使わなければどんどん退化していくものですから、使わなければ筋肉は落ちて、関節は硬くなり、動かなくなってしまうのです。
家庭でもできるリハビリ
リハビリ病院や施設に入っていない場合は、家庭でできるリハビリもあります。自宅で家族の人ができるリハビリのプログラムを、退院前に教わってから退院するとよいですね。
自宅では、食事を食べることや、座ってテレビを観ることも、立派なリハビリになります。まずは寝たきりにさせないことが、合併症予防の第一です。
また、介護度にもよりますが、理学療法士や作業療法士に自宅に来てもらう、在宅リハビリという方法もありますので、ケアマネに相談してみましょう。
脳梗塞の検査
急性期の頭の検査というと、MRI検査とCT検査です。
CTは出血を判定するにはいいのですが、梗塞はMRIでなければわからないことも多々あります。(発症から時間が経過していたり、広範囲であったりする場合にはCTでもうつることがあります。)
また、血管に焦点をしぼったMRAという撮影を行うと、よりどこの血管が狭くなったのか・詰まったのかを判定することができます。
脳梗塞かなと思われる症状が出たら、MRI検査のできる病院へ行くことが大切です。(ただし、MRI検査機器があっても、時間と技術が必要な検査であり、夜間や休日には稼働させられない場合もあります。)
脳梗塞の治療法
発症後4.5時間以内
脳梗塞には「ゴールデンタイム」が存在します。
発症後4.5時間以内であれば、血管を詰まらせた原因である血栓を直接溶かす、血栓溶解療法(t-PA)という治療ができることがあります。
ただし、血栓溶解療法は血液をとてつもなくサラサラにするので、大きなリスクを伴います。血液をサラサラにして血栓を溶かすということは、逆を言うと出血してしまうリスクもあるということです。最悪の場合、脳梗塞を起こしているのに脳出血を起こすこともありえます。(血栓溶解療法しなくても脳梗塞と脳出血が合併することはあります。)
そして適応基準を満たした症例しか使うことができません。
血栓溶解療法は、脳梗塞の症状が出現してから4.5時間以内のときのみに行う治療です。
「朝起きたら腕が動かなかった」という場合は発症時刻が不明となってしまいます。「○時○分頃から、ペンが持てない」という明確な発症時刻が必要となります。血栓溶解療法は、とても慎重な見極めを要する治療となります。
いずれにしても、脳梗塞の前兆症状が現れたら、夜中でもすぐに病院に行くことが重要です。
4.5時間を超えた急性期
4.5時間を経過していた場合はどうなのか?もう治療しても回復の見込みはないのか?というと、もちろんそんなことはありません。
他にも急性期治療としては、次のようなものがあります。
- 脳保護療法 → 脳組織の死んでいく(梗塞巣の拡大)を防ぐ。
- 抗血小板療法、抗凝固療法 → 血栓が大きくなるのを防ぐ。
- 抗脳浮腫療法 → 脳がむくんで、周りの脳細胞を圧迫して傷むのを防ぐ。
しかし、これらはあくまでも現状を悪化させないための治療です。積極的な治療は血栓溶解療法となります。
やはり、発症後4.5時間は予後を左右する「ゴールデンタイム」となります。様子見をしていたら、あっという間にこの4.5時間は過ぎてしまいます。
回復期
そして、急性期を脱したら今度はリハビリに力を入れて、できるだけ機能の回復に努めます。急性期からの移行目安は、おおよそ発症から2~3週間とされています。
集中的にリハビリを行うために、リハビリ専門病院への転院が必要になることもあります。
維持期・慢性期
回復期を経たあとは、回復した機能をできる限り維持し、社会復帰を視野に入れます。
おおよそ発症から数か月~半年で、積極的なリハビリから機能を維持するためのリハビリに移行します。
再発予防の治療は生涯続く
再発予防はずっと続ける必要があります。仮に一度目の脳梗塞では後遺症がなく社会復帰できたとしても、生活習慣を改めて処方された薬をきっちり飲んでいなければ、二度目が来ます。そのときには、もう寝たきりになってしまうかもしれません。
新たな脳梗塞の発症を予防して、高血圧・糖尿病といった危険因子をコントロールするには、生活習慣の改善は必要です。これも、慢性期の治療の一つです。慢性期治療の柱は下の2本です。
- 抗血栓療法
血液をサラサラにして、血栓を作りにくくする薬の内服を、一生続けます。 - 動脈硬化の危険因子のコントロール
高血圧・糖尿病・脂質異常症・喫煙・飲酒に対し、内服や食事・運動の管理を行い、生活習慣を改善します。
脳梗塞は一度急性期治療を終えても、一生再発予防のための治療を続けなければいけません。
脳梗塞のまとめ
- 脳梗塞は、血管の中が詰まって血液が足りなくなる(=虚血性)病気です。
- 脳梗塞には、アテローム血栓性脳梗塞、心原性脳梗塞、ラクナ梗塞の3つの型があります。
- 無症状でも画像上では脳梗塞のある場合を、隠れ脳梗塞といいます。
- 脳梗塞の症状には、片方の手足の麻痺、呂律(ろれつ)不全、失語、意識障害などがあります。
- 脳梗塞の前兆は、手のしびれ、物が持てない、めまい等があります。
- 合併症は多岐にわたり、合併症により亡くなる人もいます。
- 合併症を防ぐためには、早期からのリハビリが必要となります。
- 急性期の脳梗塞の検査には、MRIやMRAが優れています。
- 脳梗塞の急性期治療は血栓溶解療法だが、発症後4.5時間以内と限られています。
- 脳梗塞は急性期治療が終わっても、再発予防のための治療と生活習慣の改善が一生必要となります。