更新日:2017年08月29日
顎関節症とは
口を開閉するとパキンやカクッと音が鳴る。
食事の時、顎が痛くて食べられない。
口が開けづらい。
最近、このような症状に悩まされている人が増えています。特に20~30代の若い女性に多いと言われていますが、中には小学生で発症するケースも少なくありません。
上記のような症状は、顎関節症と呼ばれるものです。
顎関節症とは、顎関節及び咀嚼筋(下顎と側頭部に付いている筋肉で、主に食べ物を食べる時に動かす部分)に起こる痛みや雑音、開閉障害などの総称を指すもので、症状のある部位ごとに日本顎関節学会によって下記の5つのタイプに分かれています。
顎関節症の種類
Ⅰ型
顎関節を動かしている筋肉に障害が起こり、筋肉の硬化や血行不良によってしこりが生じ、痛みが発生します。主に咀嚼筋に多く出現します。
Ⅱ型
顎関節を覆う関節包(関節を包んでいる組織で、外側は繊維質の膜で覆われ、内側はぬるぬるとした滑膜の二重構造になっており、摩擦を軽減して関節を守る働きを行っています)や靭帯に強い力が加わり、炎症を起こして痛みが生じます。
イメージとしては捻挫のような状態になるため、顎を動かすと痛みを感じます。
Ⅲ型
顎関節の下顎頭(下顎のうち、顎関節側の先端の楕円形の部分)と下顎窩(上顎と繋がった頭蓋骨の関節部分)との間には、関節円板と呼ばれる線維が集まった組織があります。この関節円板に障害が起こるのがⅢ型です。
関節円板は、下顎頭と下顎窩の間でクッションのような役割を果たしているのですが、何らかの理由で前にずれてしまうことを「関節円板前方転移」といい、口を開こうとすると下顎頭が関節円板の下にもぐり込んでカクッという音が鳴ります。
そして、口を閉じる時には、今度は下顎頭のみが関節円板が外れ、同様にカクッと音が鳴ります。(これを〝クリック〟と言います)この場合、一度関節円板がずれた状態であっても、下顎頭の動きによって元の位置に戻ることから、「復位を伴う関節円板前方転位」と呼びます。
しかし、さらに症状が進むと下顎頭が関節円板の下にもぐり込まなくなり、カクッという音は消失するものの、下顎頭の前方への動きが制限されるため、口を開くのが困難になります。(これを〝クローズド・ロック〟と言います)
この場合は、元の位置に戻らないことから「復位を伴わない関節円板前方転位」と言います。
Ⅳ型
顎関節の使い過ぎや、繰り返し負荷が掛かることで軟骨がすり減り、骨が変形することによって起こります。
Ⅴ型
Ⅰ~Ⅳ型のいずれにも属さず、主に心理的な要因によって顎関節症を引き起こしているものや、原因が不明の場合はⅤ型に分類されます。顎関節症は上のⅠ~Ⅳのどれか1つに該当するというよりは、複数の種類が混同して発症するケースの方が多いとされています。
顎関節症は、軽症であれば自然治癒することもあり、必ずしも発症後は悪化するわけではありません。しかし、重症化すると日常生活がままならなくなるだけではなく、手術が必要となるケースもあります。
顎関節症が起こる原因
顎関節症は、以前までは噛み合わせの悪さが主な原因とされていましたが、現在は、それ以外にも様々な原因があることがわかってきています。
その中でも医療の現場では、あくびで急に口を大きく開けた場合や、固いものを食べた時に顎関節症を発症し、受診する方が多くなっています。
また、顎関節症を引き起こす原因には、それ以外にも次のようなものがあると言われています。
- 歯ぎしりや、歯をカチカチと鳴らす
- 重い荷物を運ぶ時や物事に集中している時、または就寝中などに、くいしばり(上下の歯を力いっぱい噛みしめること)をしている
- うつ伏せで寝る、頬杖を突く、顎の下に電話を挟みながら通話するなどの癖がある
- 左右のどちらかの歯で噛む
- 顎関節の発達が未熟
- 不適切な歯科治療、歯科治療で口を大きく開けた
- 猫背
- 精神的なストレス
- 顎を強打した
これらの因子が積み重なることで、顎関節や筋肉の耐久限度を超えて顎関節症を発症します。
なお、顎関節症の発症に女性が多い理由としては、男性と比べて筋肉や骨格が弱いことや、硬いものよりもやわらかいものを好んで食べる傾向にあることが挙げられます。
症状
顎関節症の主な症状には、以下の5つが挙げられます。
疼痛
顎関節や周囲の筋肉に痛みが生じます。
食事や会話など、顎を動かした時に痛みが出やすくなります。また、顎関節は耳の穴から1㎝ほど前方にあることから、こめかみの辺りに痛みを感じることもあります。
開口障害
口が開きにくくなる症状で、ある日突然、口が開かなくこともあれば、徐々に進行していく場合があります。通常、口は指を縦にして3本分ほど入りますが、開口障害になると指が2本分以下しか開かなくなります。
関節雑音
口を開閉した時に、カクッ、ポキッ、ガリガリ、ジャリジャリなどの音が聞こえます。症状が音のみで、口が開きにくい、痛みがあるといった他の症状がなければ、経過をみていけば治ることもあります。
噛み合わせの違和感
口を開ける時に顎が左右にずれながら開くような感じがしたり、人から「話しをしている時に、口が上下で違う開き方をしている」と指摘されたりしたことがある場合は、顎関節症によって噛み合わせに変化が生じていると考えられます。
また、実際には噛み合わせには変化が起こっていないにも関わらず、脳への情報伝達が変化することで、噛み合わせに違和感があるように感じることもあるようです。
口がしっかりと閉じない
顎関節症の症状としては稀なのですが、上下の歯を合わせて口を完全に閉じることができなくなる場合もあります。
なお、顎関節や筋肉は、首や肩に繋がっていることから、顎関節症の発症によって頭痛や肩こり、手足の痺れ、腰痛などを起こすことがあります。
さらに、顎関節は頭蓋骨と繋がっているため、顎関節が歪むと頭蓋骨も歪んでしまい、そこから自律神経の乱れを生じさせてしまうと言われています。自律神経が乱れると、耳鳴りやめまい、不眠、食欲減退、吐き気、疲労感、イライラ、味覚の異常、口の乾き、嚥下困難など、あらゆる症状を引き起こしてしまいます。
治し方・治療方法
顎関節症と診断されたら、症状を改善するために治療が開始されます。それでは、顎関節症の治療法には、どのようなものがあるのでしょうか。
顎関節脱臼非観血的整復術
顎関節症の治療の中で、最も多いのがこの治療法です。
顎関節が脱臼している場合に、牽引や徒手整復(手を使って脱臼や骨折による骨の位置関係を正常に戻すもの)を行って治療を施します。
この治療は、歯科口腔外科が専門であるため、顎が外れて元に戻らないという時には、すぐに受診するようにしましょう。筋肉の緊張が見られて上手く顎がはまらない場合には、麻酔薬を用いて一時的に眠らせた隙に、同治療を行うケースもあります
なお非観血的とは、手術などによって出血を伴うような治療を指す観血的という言葉の逆の意味で、出血を伴わない治療のことを指しています。
※顎の関節は、他の関節のように脱臼と言っても、凸凹が組み合うようになった骨の先端部分同士が完全に外れてしまうわけではなく、実際には軸の部分が軸受けから外れて前方に移動したまま元に戻らない場合を指します。
スプリント療法
プラスチック製のマウスピースのような装具を、歯列を覆うように装着することで、無意識に行ってしまう歯ぎしりやくいしばりを防ぎます。
薬物療法
顎関節症による顎などの痛みが強い場合には、鎮痛剤を用いて痛みを除去します。また、筋肉の緊張緩和を目的として筋弛緩剤や、精神的な苦痛を取り除くために抗不安薬や抗うつ薬を使用するケースもあります。
理学療法
顎関節症の急性期(痛みが現れてまもない、痛みが強い時)には炎症を抑えるために患部を冷やし、慢性期(痛みが現れて日数が経過している、痛みが弱い時)には患部を温めて血行を促進することで、それぞれ痛みを緩和することができます。
運動療法
顎を動かしたり、口の開きを少しずつ大きくしたりするための訓練を行います。
外科療法
円板前方転移により顎関節内に強い痛みがある場合には、関節腔に注射を刺し、生理食塩水や麻酔薬の注入・吸引を繰り返すパンピング・マニュピュレーションを行います。
これにより、下顎頭のロックが解除します。
関節腔に痛みを発生させる物質が溜まっていたり、外傷によって血液が溜まっていたりする時は、関節腔内洗浄療法が行われます。関節腔に局所麻酔をした後、関節腔に溜まった液を排出するための注射針でチューブを取り付けます。
そして、麻酔用の針から生理食塩水を注入し、チューブから汚れた関節液を排出した後、炎症を抑えるためにヒアルロン酸やステロイドを注入します。
パンピング・マニュピュレーションや関節腔内洗浄療法を行っても効果がなかった場合や、関節円板と骨の癒着によるクローズド・ロックで口が全く開けない状態の場合は、関節鏡手術が行われます。
関節鏡手術とは、顎関節を包むように存在している関節包に小さなカメラを入れて行う手術のため、通常の手術よりも切る部分が小さく済むというメリットがありますが、手術後の感染症や後遺症のリスクを伴うため、顎関節症の治療としてはそれほど多く行われていません。
家でできる簡単な対処法
顎関節症は、日常生活における何気ない癖や動作によって、顎への負担が積み重なり発症すると考えられています。そのため、病院の治療を受けても、症状が改善するとまた同じようなことを行ってしまうため、再発しやすいのが特徴です。
では、顎関節症の発症・再発を防ぐためには、どのようなことに気を付けたらよいのでしょうか。ここでは、家でできる簡単な治し方や対処法をご紹介します。
顎が急に痛くなった時の簡単な治し方
なるべく口を開けないようにする
食べ物は小さく切って食べ、あくびの時は口を大きく開けて行わないようにしましょう
患部を冷やす
痛みのある部分に冷湿布や冷たいタオルをあてて、炎症が広がらないようにしましょう。痛みがとれてきたら、今度は温めてあげることで血行がよくなり、症状の回復が早まります。
固いものは食べない
痛みがあるうちは、歯で強く噛まなければならない食べ物は避けるようにしましょう。
上下の歯を離すように意識する
痛みがあると、つい体に力が入り歯をくいしばってしまいますが、それでは痛みがさらに強くなる恐れがあります。顎関節症と思われる症状がある時は、上下の歯が接触しないように意識することがとても大切です。
忘れてしまいそう・・という人は、「歯を離す」と書いた紙を部屋の見えるところに貼っておき、常に意識するように心掛けてみましょう。
食事の前に鎮痛剤を使用しない
痛みで食事ができないからといって、鎮痛剤を使ってしまうと、痛みが緩和されることで食事の時に歯を噛みしめすぎてしまい、鎮痛剤が切れたら痛みがひどくなるケースがあります。
慢性的に顎関節症と思われる症状がある時の対処法
仰向けで寝る
うつ伏せは顎に体重が乗って、負担が掛かりやすい姿勢になるため、仰向けで寝るようにしましょう。また、横向きで寝るのも顎の一部に負担が掛かりやすいと言われているので、避けた方がよいでしょう。
姿勢に気をつける
頬杖や猫背、足を組むなど、体に歪みが生じるような姿勢にならないように注意しましょう。また、長時間同じ姿勢をとり続けないように、時々首や肩を回したり、ストレッチをしたりするのも効果的です。
ウォーキングなどの全身運動を行う
全身運動を行うと、血行がよくなり痛みや疲労の原因物質の排出が促進されます。また、気分転換にもなるため、ストレス発散やリラックス効果も期待できます。
力を入れる運動や楽器演奏などは避ける
歯をくいしばるようなスポーツや、管楽器の演奏は避け、顎関節や筋肉に負担をかけないようにしましょう。
顎サポーターを利用する
起床時には、大きく口を開けないように注意することができても、就寝時は無意識のうちに口を開けて寝てしまう場合もあり、それによって顎関節症を繰り返してしまうケースも多く見られます。
そのような人は、顎関節脱臼対策用の顎サポーターを使用するのが効果的です。顎サポーターで下顎の部分を上に持ち上げるように装着することで、寝ている時に口が勝手に開くのを防いでくれます。
顎関節症で悩んでいる人へ
顎関節症の多くは、口を大きく開けたことによる脱臼で、外科、形成外科、歯科口腔外科で治療してくれますので、すぐに受診することで正常の状態に戻ります。
しかし、こういった即効性の治療で治らないものも多く、こういった場合は様々な因子が積み重なって発症するため、どれか1つだけを解決してもなかなか症状が改善しないことも多くあります。
長期間に渡り顎関節症に悩んでいる人もいると思いますが、焦らずに治療を続けていきましょう。