緑膿菌とはどこにでも存在する菌ですが、抗生物質への耐性を獲得しやすく、体力や免疫力の低い人に感染すると、治療に難渋することがあります。肺や爪など、身体のいたるところに感染する恐れがあります。感染して重症化すると、命に関わる可能性もあります。ここでは緑膿菌と緑膿菌感染症について説明していきます。

更新日:2017年10月31日

この記事について

監修:大河内昌弘医師(おおこうち内科クリニック院長)

執筆:当サイト編集部(看護師

緑膿菌感染症とは

作者 Photo Credit: Janice Haney CarrContent Providers(s): CDC/ Janice Haney Carr [Public domain], ウィキメディア・コモンズ経由で

緑膿菌感染症は、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)が体に侵入し、増殖して悪さをする病気です。体力や免疫力が落ちた人がかかりやすいのが特徴です。緑膿菌が血液に入ったり肺に入ったりすると、治療で治りづらい感染症に進展する恐れがあります。

緑膿菌とはどういう菌?

緑膿菌はその名の通り、傷口に貼ったガーゼなどに繁殖すると、ガーゼが緑色に染まるのが特徴的です。

また、台所やお風呂など水回りで増えやすい特徴があります。

病院でも洗い場などの水回りに増えやすく、洗浄や消毒後にしっかり乾燥していない医療器具にもついてしまうことがあります。

緑膿菌はどこにでもいる

緑膿菌感染症は医療関係者の中でもやっかいな感染症のひとつとして扱われていますが、そもそも緑膿菌そのものは身の回りのいろいろなところに存在します。

台所回りはもちろんのこと、人間の体の皮膚や体内の腸にさえ存在しているのです。このような菌を「常在菌」といって、普段はまったく悪さをしません。

緑膿菌を飲み込むとどうなっちゃうの?

緑膿菌は水回りに多い菌なので、乾ききらずに長いあいだ放置されたコップや食器についてしまっていることもあります。そういう物を使って食事をしてしまうと、緑膿菌も口の中に入ってしまいます。

体内に入っても胃酸で殺菌されるので、口から食べ物や飲み物と一緒に入った緑膿菌が原因で胃炎のような症状が出ることはほとんどありません。

胃酸を逃れた緑膿菌は、弱い酸性である腸にたどり着いてそこで定着することもあります。ですが、腸内にはビフィズス菌などの善玉菌と呼ばれる菌もたくさんいます。善玉菌は緑膿菌などの悪玉菌を退治してくれるので、緑膿菌によって下痢などの症状が起こることもあまりありません。

緑膿菌感染症って、何が怖いの?

緑膿菌は弱い者いじめが得意

健康な人が緑膿菌に触れても、緑膿菌が体内にいても、全く影響はありません。緑膿菌感染症の主なターゲットは、高齢者や重い病気に苦しむ患者さんなど、抵抗力がとても弱い人たちです。

常在菌で健康なときには何もないのに、弱い人間に限って感染症を引き起こすことを「日和見感染症」といいます。「日和見」とは、その時の状況によってコロコロと態度が変わることです。緑膿菌も健康な人には無害な顔をしていますが、病気の人に対してはとても鋭いキバを剥くのです。

もともと効果のある抗菌薬が少ない

緑膿菌は菌なので、緑膿菌感染症の治療の基本は「抗菌薬」での治療です。抗菌薬にはたくさんの種類がありますが、その中でも効果のある抗菌薬がとても少ないのが、緑膿菌の大きな特徴のひとつです。

一般的な細菌による感染症の治療では、「この抗菌薬では症状が治りきらなかった(菌が殺しきれなかった)から、他のもっと強い抗菌薬を使おう」という方法を繰り返します。けれど緑膿菌の場合はその選択肢がとても狭いので、治療にとても苦労するのです。

重症になりやすい

緑膿菌が体内に入り込んで感染症を起こすと「エンドトキシン」という毒素を吐き出します。これはとても強い毒素です。

体内に入り込んだ細菌が血液にまで入り込んでしまうことを「敗血症(血の感染症)」といいますが、緑膿菌が原因で敗血症になると、腎臓や肝臓など全身の状態が一気に悪くなってしまうことがあります。

また、緑膿菌が肺など呼吸器に感染する「呼吸器感染症」になると、生命の危機になるほど呼吸状態が悪化してしまうことがあります。

多剤耐性菌になりやすい

緑膿菌のもう一つの厄介な特徴に、「薬剤耐性菌になりやすい」という特徴が挙げられます。薬剤耐性菌というのは、その薬剤では死ななくなった菌ということです。

そして全ての抗菌剤の効果がなくなった緑膿菌のことを「多剤耐性緑膿菌」といいます。

この多剤耐性緑膿菌に対して、現在はまだ確たる治療法がありません。たとえ新しい機序の抗菌薬が開発されても、それに対してすぐ耐性を獲得してしまう恐れがあります。また、もともと緑膿菌感染症にかかる人は体力や免疫力が弱っている人です。残念なことに、命にも関わる状態になってしまうことが少なくありません。

このような恐ろしい感染症のため、多剤耐性緑膿菌感染症に関しては国も注視してその発生を監視しており、発生した病院は国に届け出ることになっています。


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緑膿菌の感染経路

どうやって感染するの?

緑膿菌は正常な皮膚や腸にも存在しますが、緑膿菌感染症になるもっとも多いきっかけは「キズ」です。

身体の表面にできるキズとしては、手術のキズや長い間寝ていることで起こる床ずれなどが代表的なものとして挙げられます。皮膚というバリアがなくなり弱くなった部分から、緑膿菌は簡単に身体の内部に入り込んで感染症を起こします。

そして、身体の内側では「炎症」が緑膿菌感染症のきっかけになります。膀胱炎や肺炎など身体の内部でちょっとした炎症を起こした部分は、菌が付きやすい場所になります。炎症を起こした部分に緑膿菌が付くことにより、ただの炎症だったものが緑膿菌感染症になってしまうのです。

緑膿菌は院内感染が怖い

緑膿菌感染症は身体が弱った人をターゲットにする感染症なので、病院内は緑膿菌にとっては感染が広がりやすい格好の場所です。緑膿菌がうつる経路は主に3つあります。

1. 医療器具によるもの

1つ目は、緑膿菌の付着した医療器具を使うこと。特に呼吸器に使う内視鏡や、尿管に入れるチューブ(カテーテル)などは消毒や手技が悪いと、体内に直接緑膿菌をつけてしまうことになるので注意が必要です。

2. 人からの感染

2つ目は、人から人に直接うつるパターン。患者さん同士がコミュニケーションをとる中で、咳などに含まれる緑膿菌が相手の粘膜に付着します。

3. 病院スタッフなどからの感染

3つ目は、感染症のない人を介して付着するパターン。これは、主に病院スタッフによる医療ケアを通じて起こります。感染を持った患者さんをケアした後や、菌の付着した身の回りの物に触った後に手洗いや手指消毒が不十分だと、そのままその緑膿菌を次の患者さんに付けてしまうことになります。

院内感染しやすい多剤耐性緑膿菌

緑膿菌の院内感染が問題になるのは、その耐性の獲得の仕方に理由があります。

細菌が抗菌薬に耐性を獲得する方法は2つあります。ひとつは、その菌自身が抗菌薬を投与されて耐性を獲得する、自らの体験で強くなるパターン。

そしてもうひとつのパターンは、他から移ってきた菌が耐性菌としての遺伝子情報を、耐性を持たないただの菌に教えてあげることで、耐性菌にしてしまうパターンです。

緑膿菌はどちらのパターンに当てはまります。ある抗菌剤に対しては1つ目のパターンで、そしてほかの抗菌剤に対しては2つ目のパターンで、耐性を獲得します。

この2つ目のパターンがより厄介な耐性であり、そのことが多剤耐性緑膿菌の院内感染を増やす最も大きな原因になっています。

ただの緑膿菌にいくら抗菌剤を使い続けても、それだけでは多剤耐性緑膿菌にはなりません。院外からほかの患者さんについて持ち込まれた多剤耐性緑膿菌が器具やスタッフの手指を介して付着することで、初めてその患者さんの緑膿菌も多剤耐性緑膿菌になるのです。

体内に多剤耐性緑膿菌がいるからといって、すぐに重症の感染症になるわけではありません。ですがもともと体力の落ちている患者さんなので、ちょっとしたきっかけで肺炎を起こしたりすると、多剤耐性緑膿菌のせいでものすごく重症になってしまったりするのです。

妊婦さんが緑膿菌感染症になるとどうなる?

妊婦さん

緑膿菌は水回りに多い菌であり、腸にも自然に存在することのある菌なので、妊婦さんに限らず、じめじめして腸に近い陰部周辺にいることはよくあります。

ただ妊婦さんは健康な人に比べて免疫力が落ちていますし、お腹が大きくなってくると陰部周辺の血流が滞ってしまうこともあり、陰部や膣内での緑膿菌感染症を起こしやすい状態になっています。

膣内の緑膿菌感染症の検査は、妊婦健診ですべての妊婦さんに対して行われます。そして、必要に応じて飲み薬や膣の中に入れるタイプの抗菌薬が処方されます。指示通りにその抗菌薬を使用すれば、まず問題になることはないでしょう。

ただし過去には、緑膿菌感染症のある妊婦さんから生まれた胎児が、緑膿菌が原因の敗血症になってしまったケースもあったようです。医師の説明を良く聞き、正しい治療をしましょう。

緑膿菌は男性器にも付着していることがあります。性行為がきっかけで緑膿菌感染症になることもあるので、出産が近くなったら性行為は避けることも予防になります。

緑膿菌感染症の症状

症状

呼吸器感染症

緑膿菌が肺や気管支などの呼吸器に感染すると、とても重症になりやすい傾向があります。それは、肺や気管支は緑膿菌が身体の外から付着しやすいのと同時に、血管にも接しているからです。

肺に入り込んだ緑膿菌は肺炎自体を重いものにして、同時に血液へと感染して敗血症や多臓器不全(いくつもの臓器が同時に悪くなること)を引き起こすことがあります。これは、ただの緑膿菌でも、多剤耐性菌でも同じことです。

最初に起こる症状は痰や咳など一般的な肺炎と変わりませんが、徐々に息苦しさが強くなっていき、呼吸がしづらくなります。全身状態が悪くなるにつれて意識も朦朧としてきて、身体に十分な酸素を肺が取り込めなくなると、気管にチューブを入れて人工呼吸器の力を借りて呼吸をすることになります。

気管にチューブが入っていること自体が本人にはとても苦しいので、意識がまだ残っているときはチューブを抜こうとしてしまうことがあります。けれどチューブを抜いてしまうと呼吸ができなくなるので、強めの鎮静剤使って眠っているような状態にして、チューブを入れた状態を維持することがあります。

鎮静剤を使って人工呼吸器をつなぐことは肺を休めることにもなるので、その場しのぎの呼吸を助ける手段だけでなく、肺炎の治療を効率的に進める手段でもあります。

緑膿菌による肺炎は病院内で感染することがほとんどですが、ごくまれに日常生活の中で感染することもあります。これを市中緑膿菌肺炎といい、入院患者と違って情報が乏しいために原因菌の特定が難しいことと、症状が急激に進むことで時として数時間で命に係わるほどの重症になることがあります。

尿路感染症(膀胱炎、尿道炎)

腸にも存在する緑膿菌は、尿路感染症の原因になることも多々あります。特に肛門と尿道口が近くにある女性や、尿管カテーテルを入れている患者さんには多くみられます。

抗菌薬の内服で治療しますが、尿道カテーテルを挿入したままの患者さんでは、治りにくいことがあります。緑膿菌が尿道を上がっていってしまうと、腎盂腎炎を引き起こします。そうなると熱が出て全身状態が悪くなってしまうことがあります。

グリーンネイル

爪が緑膿菌感染症にかかると、緑色になることからこう呼ばれます。

水仕事が多い人になりやすいのと、最近では剥がれかけのジェルネイルと自分の爪の間に湿った環境ができ、緑膿菌が入り込んで発症することもあります。

爪の周辺は皮膚が入り組んでいるため、緑膿菌に限らずばい菌が増えやすい場所です。石鹸でよく爪の周りも洗うことと、消毒薬を使うときには手の平に消毒液を貯めるようにして、爪の周囲にもしっかり刷り込むことが大切です。

またグリーンネイルになってしまったときは放置せず、皮膚科医に相談しましょう。状態に応じて、飲み薬や爪に塗るタイプの抗菌薬が処方されます。症状が完全に治るまではジェルネイルはせず、清潔で乾燥した状態を保つことが必要です。

目の緑膿菌感染症

コンタクトレンズをしていると、涙による自浄作用が薄れることと、コンタクトレンズ自体やケースなどに菌が繁殖しやすいことから、緑膿菌感染症を発症することがあります。健康な裸眼の状態では、緑膿菌に感染することはほぼありません。

コンタクトやその付属品を清潔にすることと、正しく消毒すること、コンタクトを扱う前に正しい手洗いと手指の消毒をすることで予防できます。


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対処法・治療法

単純な緑膿菌感染症に罹ってしまった場合は、なによりも抗菌剤を正しく使用することが大切です。良くなってきたからと放置すると症状がぶり返したり、1か所で感染症を起こしている菌が身体のいろいろなところに広がってしまったりします。

緑膿菌に対する抗菌薬を使用することで、体を守っている善玉菌が死んでしまい悪い菌が多くなり、下痢やカンジダなど他の病気や症状があらわれることがあります。その際も緑膿菌の治療を自己判断でやめることはせず、医師に相談して適切に対処するようにしましょう。

多剤耐性緑膿菌に感染したら

多剤耐性緑膿菌感染症にかかり、症状が出てしまった場合は、通常よりも多い量の抗菌薬を複数同時に使うことになります。

既にすべての抗菌剤に耐性はできてしまっていますが、量でなんとかカバーしようという治療法で、確実に感染症を治せるものではありません。本人の体力や病状次第では、治療の甲斐なく全身状態が悪くなってしまったり、死に至ってしまったりするケースもあります。

予防法・感染対策

予防法

緑膿菌感染症を予防するために

体力や免疫力が落ちている人は、なるべく体内に緑膿菌を入れないことが大切です。

傷口は毎日洗浄するなどして清潔に保ち、医師の指示に従って正しい処置をしましょう。緑膿菌など一般的な菌は湿った環境を好みます。

そのため、最近、傷口に対して行われようになってきた湿潤療法(清潔で湿った状態で維持することで傷口を早くきれいに治す治療)においても、行うにあたっては傷口が感染していないことが前提です。

緑膿菌感染症の方が家族にいる場合

緑膿菌を持っている場所を清潔に保ち、薬を塗ったり処置をしたりする前後には正しい手洗いと手指消毒をしましょう。

手指消毒は市販の速乾性手指消毒薬でできます。容器を移し替えたり継ぎ足しをしたりすると、容器の中に菌が繁殖してしまうのでやめましょう。

お風呂は体力や免疫力が弱っている人が最初、緑膿菌感染症を持っている人を最後にするとよいでしょう。

周囲の環境について

緑膿菌に消毒は必要ない

前にもある通り、緑膿菌感染症は健康な人が恐れる必要はありません。一般家庭の台所に緑膿菌は存在しますが、基本的に消毒は必要ではありません。

消毒薬でも薬剤耐性緑膿菌が作られる

病院でもシンク自体の消毒はする必要ありませんが、消毒液をシンクに毎日捨てているために薬剤耐性緑膿菌を作ってしまうことがあります。緑膿菌は抗菌薬に対するのと同じように、消毒薬に対しても耐性を持ちやすい菌です。

シンク付近は緑膿菌などの菌が繁殖している可能性を常に考えて、薬や経管栄養剤、医療器具にこれらが付かないように十分配慮する必要があります。

水回りを乾燥させることが大切

一般家庭で免疫が落ちてしまっている家族がいて気になる場合、台所やお風呂場など気になる場所を消毒することもできます。消毒薬には0.1%ベンザルコニウムや0.01%次亜塩素酸ナトリウムを使います。

消毒と同じくらい大事なのは、その後の乾燥です。消毒をした後はなるべく乾拭きをして風通しを良くして、乾燥した環境を保つようにしましょう。

スポンジなど水回りの備品は湿った状態でいることが多く、菌が繁殖するのにはちょうどいい場所です。使った後はよく絞るなど乾燥させ、消耗品は数週間間隔で頻繁に交換すると安心です。

看護師からひとこと

緑膿菌感染症は、肺や血液に入らなければ怖い病気ではありません。感染してしまった後も正しく治療をすることで、まったく問題なく日常生活を送れます。

予防するには、普段から手洗いとシャワーを丁寧にすること、傷口を丁寧にケアすることが大切です。怖がりすぎずに、まずは基本的な生活習慣を見直してみましょう。

緑膿菌に関する質問や回答が寄せられていますので、こちらも参考にしてください。

[カテゴリ:免疫, 気管・心臓・肺]

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