更新日:2017年09月15日
目次
自律神経失調症とは
自律神経という言葉は知っているけれど、実際のところどんな働きをしているのかと聞かれると、答えられない人は多いのではないでしょうか?
自律神経とは、その時々の身体の状態に合わせて、呼吸・血液循環・消化・ホルモンの分泌・排泄・体温調節など、全身の器官のバランスをコントロールする神経のことです。
自律神経はほぼ全身に張り巡らされていて、身体のバランスが崩れ過ぎないように保つ働きをしているのです。これをホメオスタシス(恒常性)と言います。
では、もう少し自律神経について説明しましょう。自律神経には3つの特徴があります。
- 自律神経は無意識に動いている。
- (多くの場合)1つの臓器に対して交感神経と副交感神経の両方が支配している。
- 交感神経と副交感神経は反対の働きをする。
無意識に動く自律神経
腕を伸ばしたい時には、腕を伸ばすことができますね。ところが、心臓や肺など臓器の活動は意識して止めたり、動かしたりできません。
自律神経はこういった臓器などの調整をする神経で、休みなく働いています。したがって、自律神経は自分で制御することができません。
そして、自律神経のバランスが崩れると様々な症状が出るのですが、自分ではどうすることもできないのです。
反対の働きをする交感神経と副交感神経
自律神経には交感神経と副交感神経の2つがあり、全く反対の働きをしています。それぞれが1つの臓器(標的)に対して、綱引きのようにお互い引っ張り合いをして、最適な状態を保っています。
例えば心拍数に関しては、交感神経は心拍数を上昇させますが、副交感神経は心拍数を減少させます。いつもこれが絶妙なバランスを保っているのです。
交感神経は生存の危機に立ち向かうための神経で、エネルギーを消費する作用があります。一方で副交感神経は、リラックスしたりエネルギーを確保したりする働きがあります。
それぞれ真逆の働きをするこの二つの自律神経が、綱の引っ張り合をして各臓器を調節しているのです。ところが、その引っ張り具合がうまいくいかないと、自律神経が乱れて様々な症状が現れてしまうのです。
自律神経失調症の原因
では、この自律神経のバランスは、どのような理由で崩れてしまうのでしょうか?
- 生活リズムの乱れ
- 精神的なストレス
- ホルモンバランスの乱れ
- 環境の変化
- 体質・性格
生活リズムの乱れ
本来の人間は、夜に眠り、昼に活動するように作られています。そのリズムを無視して夜遅くまで仕事をしたり、ネットサーフィンをしたりという生活を繰り返していると、自律神経も乱れてしまいます。
精神的なストレス
通常、人間は日中の活動時間帯(仕事中)には、交感神経が綱引きで優位になっています。そして帰宅後はリラックスタイムに切り替わり、副交感神経が優位になります。帰宅すると誰もがホッとしますよね?
ところが、過度に精神的なストレスのかかる職場に1日中いると、帰宅後も常に危機的状況にあると勘違いして、本来リラックスして心拍数が落ちるところを上げてしまい、動悸として症状に現れるのです。
ホルモンバランスの乱れ
特に女性の場合は、一生を通じてホルモンバランスが変化しています。生理周期もホルモンバランスが関与していますし、更年期障害もそうです。
自律神経失調症が女性に多いのも、ホルモンが関与するためです。自律神経失調症の症状自体が、更年期障害の症状とも言えます。
環境の変化
現代では、日頃の生活でいきなりライオンに襲われる・・・なんてことはありません。ライオンというのは極端ですが、環境の変化が少ない日常に慣れてしまうと、急に発生する生活環境や職場環境の変化・人間関係に適応できなくなってしまいます。
精神的なストレスもその一つで、職場への不適応が帰宅後も緊張状態を維持してしまい、動悸を起こしてしまうのです。
体質・性格
これはもって生まれた体質や性格にもよります。例えば子どもの頃からよく吐きやすくて自家中毒を起こしてしまうとか、旅行などいつもと違う環境では眠れないなど、もともと自律神経が過敏な人もいます。
一方で、どこでもすぐ眠れるし、周囲の雑音が気にならない人もいます。過敏なタイプの人は、自律神経のバランスが乱れやすくなります。
自律神経失調症の症状
では、ここからは具体的に交感神経と副交感神経のバランスが乱れると、どのような症状が現れるかお話していきましょう。
自律神経のバランスが崩れる状態を俗に自律神経失調症と言いますが、実はこれ、正式な病名ではないんです。病気として自律神経失調症というものが認められていないのです。教科書的には、自律神経のバランスが崩れて出る症状のことを、自律神経症状と言うのです。
では、下に自律神経症状をあげてみます。あなたには、自律神経失調症の徴候があるでしょうか?チェックしてみてください。
自律神経失調症にみられる症状
- 疲れやすい、だるい、無気力
- 頭痛、微熱、めまい、耳鳴り
- 身体のほてり、発汗
- イライラ
- 不安感
- 耳閉感
- 肩や頸、背中のこり、首のつっぱり
- 手足のしびれ
- 息苦しい
- 動悸、息切れ、不整脈、胸の圧迫感
- 血圧の変動
- 食欲低下、吐き気
- 下痢、便秘
- 睡眠時無呼吸
- 手足の冷え
- 腰痛
- 頻尿
自律神経は身体中に張り巡らされていますから、バランスが崩れると全身に症状が現れてしまいます。
この中には、何かの病気による症状と一見区別のできないこともあります。息苦しい中には、本当に呼吸器疾患が隠れているかもしれませんし、動悸の人が本当に頻脈発作を起しているのかもしれません。ですから、これらの症状=自律神経失調症と断定してはいけません。
また、思春期前後にみられる自律神経失調症に、起立性調節障害というものがあります。朝に起きられない、朝礼中に突然倒れる(失神する)、起床時の立ちくらみ、午前中調子が悪く勉強に身が入らないなどの症状があり、不登校などの原因にもなります。
自律神経失調症の予防法
自律神経は、自分で調節することができません。しかし、自律神経のバランスが乱れることから遠ざかる・予防することは可能です。上にあげた原因とあわせて、予防法を考えてみましょう。
自律神経は、自分の意思でどうにかできるものではありません。しかし、原因にもあげたように、生活習慣・精神的ストレス・外部環境の変化といったものでバランスが崩れることがわかっています。これらをどのようにして良い状態に保つかが、自律神経失調症の予防になるのです。
自律神経のバランスを整え、自律神経失調症を予防するための過ごし方
自律神経失調症だからすぐに病院にかからないと・・・ということはありません。程度の軽いうちであれば、薬に頼らずに、セルフコントロールで予防兼症状緩和が可能です。
- 生活リズムを整える(朝型生活にする)
- 適度な運動を取り入れる
- 我慢しない
- リラックスできる時間をとる
- 規則正しく、バランスのとれた食事を心がける
生活リズムを整える
基本的には早寝早起きが大切です。そして睡眠時間も重要です。あなたが必要とする睡眠時間を確保しましょう。
適度な運動をする
ストレスを溜め込まないために、運動することは大切です。汗を流して身体を動かすことで、気持ちが前向きに、そして軽くなります。
いきなりランニングや激しいスポーツでは、運動自体がストレスになってしまいますから、最初はウォーキングやストレッチから始めてみるのもいいですね。
ヨガなどを取り入れると、呼吸を整えると同時にも気持ちも落ち着かせることができます。雨でもできるのでおすすめです。
我慢しない
自分の感情を押し殺さずに、表に出すことです。これはなかなか難しいことかもしれません。しかし、自分の感情を押し殺して我慢していることが、実は自分にとっては大きなストレスになっていることがあるのです。
リラックスできる時間をとる
例えば、自分が今おかれている環境にうまく適応できていないとすれば、リラックスする時間を作ることが、そこから自分を切り替えるスイッチになります。
また、
職場から自宅に帰ったら交換神経から副交感神経へスイッチを切り替えることが大切です。
ぬるめのお湯にゆっくり浸かることや、ストレッチ、マッサージも効果が期待できます。アルコールは適量であればリラックスにつながりますが、行き過ぎると逆効果ですから、量に注意が必要です。
いくら自宅でリラックスを心がけても、職場の環境自体が明らかにあなたのストレスであり、どうにもできないものであれば、転職や休職も検討したほうがよいかもしれません。
規則正しく、バランスのとれた食事を心がける
バランスのとれた食事をとることで、ホルモンバランスが整います。
食事を消化・吸収するにも副交感神経の働きが必要です。リズムが乱れると副交感神経と交感神経の切り替えがうまくいかなくなりますから、できるだけ
規則正しく同じ時間に食事を摂るようにしましょう。
自律神経失調症の合併症、派生する病気など
自律神経失調症になったからといって、これといった合併症が存在するのではありません。それぞれの症状がひどくなって現れる症状はあります。便秘ならそのままイレウスに、下痢なら電解質異常、食思不振なら痩せて免疫力が低下していくことがあります。
ただし、命に直結しないからといって、放置していてはいけません。症状は悪化してしまいますし、場合によってはショック症状をきたして命を危険にさらすことも出てきます。
それぞれの症状が悪化してしまいますから、「ただのストレスだ・・・」と放置せずに、必ず医療機関を受診して適切な治療を受けましょう。
自律神経失調症の検査
自律神経失調症は、実は間違われやすい(勘違いされやすい)症状が現れることが多く、なかなか周囲の理解が得られないこともあります。本人すら分からないことがあります。
まず、嘔吐・下痢・食欲低下・便秘といった消化器症状なら、本当に胃や腸に病気がないのか調べます。胃カメラ・大腸カメラ・エコー・CT・単純腹部レントゲン写真なんかになりますね。これらを行っても何も問題がないと、それは自律神経・・・?となるワケです。
同様に、動悸がするのなら心臓の病気がないかを調べます。心電図・単純レントゲン写真・ホルター心電図・とかですかね。今「現在も動悸がする」と訴えていても、心電図が正常ならば、心臓そのものは問題なくて心因性のものであると診断がつきます。
他にも頭痛なら頭(脳)問題がないか、めまいや耳鳴りなら三半規管という耳鼻科領域の病気がないか、それぞれの臓器を調べて問題のないことを確認します。
自律神経失調症の治療法
自律神経失調症であれば、対象臓器を検査しても、何も異常所見が出ません。そうなると、自律神経失調症としての治療を行います。間違われやすいのはうつ病やパニック障害、統合失調症です。
うつ病もパニック障害も、精神的ストレスを引き金に起こることはありますが、メカニズムは全く違います。自律神経失調症は、交感神経と副交感神経のバランスがうまくとれないことで起こるものです。
ですから、脳内伝達物質の異常によるうつ病とは病態が違うのです。統合失調症は妄想などが主症状となる精神疾患で、全く別物です。
何科を受診すればよいか?
鑑別診断するためには、必ず医師の診察を受ける必要があります。では、どの診療科にかかったらいでしょうか?まずは総合内科を受診して本当に他に隠れた病気がないかを調べてもらいましょう。
そして必要な検査を行い、鑑別診断がついた。あなたは自律神経失調症ですね、となった場合にはどのような治療を行うのでしょうか?
基本的な治療法
基本的な治療は、薬物療法です。交感神経と副交感神経のバランスが崩れるのは、交感神経の緊張状態が続くことで始まると言われています。交感神経が過度に働いてしまっている時ですね。
ですから、自律神経失調症の治療はまず、興奮状態にある交感神経を沈めてあげる必要があります。治療薬としてはグランダキシン、不安感が強いときにはデパスといった気持ちを落ち着ける薬(抗精神薬)が使用されます。更年期やホルモン異常による自律神経失調症については、ホルモン剤が処方されることもあります。
その他、漢方薬が処方されることもあります。また、音楽を聞く、アロマセラピーや、カウンセリングも過敏になってしまった交感神経の緊張をほぐしてくれますから、効果的です。
運動でストレスを解消し、生活のリズムを整えることが大切
ストレッチや・鍼灸・整体・ツボ押し・マッサージも効果が期待できます。ただ、これらは根本的な解決には至っていません。そもそものストレスや生活リズムを整えなければ、気持ちも落ち着きません。
ウォーキングや軽いスポーツで汗を流すことは、ストレスを解消してくれますし、天気の良い日の散歩なども気持ちがリラックスするのでお勧めです。
また、朝起きて、カーテンを開け太陽の光をあびることで、体に朝だということを認識させることも大切です。生活リズムを整えることで自律神経の調節にも効果があります。
周囲に理解してもらう
そして、自律神経失調症には、周囲の理解が不可欠です。家族の接し方によっては症状が悪化してしまいますし、家族との団らん・家族と一緒にスポーツをすることで症状が改善することもあります。
自律神経失調症は、正しい診断と高ぶった交感神経をどう鎮めるかが、改善のカギです。
看護師からひとこと
自律神経失調症は身体に異常は見当たらないのにつらい症状が続きます。
その症状は体のSOS信号でもありますので、日々頑張っている自分の心と体をいたわってあげてください。一人でかかえこまず誰かに相談することも大事です。
自律神経失調症のまとめ
自律神経失調症は、生活のリズムの乱れやストレスなどが原因となり、交感神経と副交感神経のバランスが取れないことで様々な症状が出てきます。
病院を受診して内服薬で治療するとともに、運動でストレスを解消すること、生活のリズムを取り戻すことなども重要です。