更新日:2017年07月26日
この記事について
執筆:豊田早苗医師(とよだクリニック院長)
やけどとは
低温やけどの説明の前に、やけどについて簡単にご説明します。
やけどとは、熱湯や蒸気、薬品などの熱ダメージによって、皮膚が損傷を受けた状態です。
皮膚は、表面にある表皮とそこから下に続く真皮の2層構造になっており、さらにその下に脂肪などから構成される皮下組織があります。軽症のやけどであれば、皮膚の一時的な変化のみで、後遺症もなく治癒することも可能です。
一方、重症の場合には、身体から水分が失われてしまうことで、皮膚のみに留まらず全身の臓器にも悪影響を及ぼすことがあります。
やけどの分類と症状
やけどは、皮膚表面からどれくらいの深さにまで障害が及んでいるかという点から3段階(4種類)に分類されます。
Ⅰ度(表皮熱傷)
表皮のみにやけどが生じた状態です。皮膚が赤くなり、腫れやヒリヒリする痛みを伴います。
数日で治り、やけどの跡は残りません。日焼けも、このⅠ度熱傷に分類されます。
Ⅱs度(真皮浅層熱傷)
表皮から真皮の浅い部分まで障害が及んだ状態です。初期は同じように皮膚が赤くなり、痛みや熱感を伴います。数時間経過すると、やけどした部位に水ぶくれが生じたり、破裂によって皮膚が剥がれたりすることもあります。水ぶくれや剥がれた皮膚の内側は赤色で、痛みを伴います。
Ⅱd度(真皮深層熱傷)
上記よりさらに深層に及びますが、それでも障害部位は真皮内に留まっている状態で、やけどの部位に水ぶくれが生じます。この段階まで及ぶと神経まで焼けてしまうため、感覚が鈍くなります。水ぶくれや剥がれた皮膚の内側は白色に変色し、痛みは感じません。
Ⅲ度(皮下熱傷)
表皮、真皮を突き抜けて、皮下組織まで障害が及んだ状態です。皮膚は灰白色に変色し、水ぶくれは生じず、痛みも感じません。
低温やけどとは
一般的には、やけどというと火事や調理などの際に、高温のものに触れてしまうことで皮膚が障害を受けるものとイメージされます。
これに対し、低温やけどとは、携帯用カイロや電気あんかなど、そこまで熱くないものに長時間接し続けることで生じるやけどのことを指します。低温やけどでは、ほとんどの場合で痛みなどの自覚症状がなく、患者さんは「気付いたら赤くなっていた」「目が覚めたら水ぶくれができていた」とおっしゃる方が多いです。
しかし、目に見える症状が出現している時点で、すでに深部までやけどが到達してしまっていることがほとんどで、これが低温やけどの怖いところです。
同じ部位を長時間温め続けると、表皮、真皮から皮下組織まで熱が伝わっていきます。表皮や真皮には十分な血流があるため、ある程度の熱を受け続けても、血流に乗せて熱を逃がすことができますが、皮下組織は血流に乏しい組織です。
このため、熱が逃げることができず、たいして熱くないものであっても、深部では高温になってしまいます。また、血流が乏しい部位の損傷は治りにくく、重症化する例も少なくありません。
通常のやけどのように派手なエピソードや痛みを伴わないものの、放置するとやけどの部位が黒く変色し、皮膚が壊死してしまいます。重症化を防ぐためには、見た目に騙されずに適切な処置を行うことが必要になります。
低温やけどの原因
原因としては、使い捨てカイロや湯たんぽ、電気あんか、電気毛布、ホットカーペット、電気ストーブなどの暖房グッズの他、ノートパソコンや充電中の携帯電話などの電化製品によっても生じます。
時間的な指標として、皮膚表面の温度と時間が以下のようになることで、低温やけどをきたすことが知られています。
- 44℃の場合には3~4時間
- 46℃の場合には30分~1時間
- 50℃の場合には2~3分
2L以上入る湯たんぽでは12時間以上にわたり50℃を超えていたという調査結果も報告されており、暖房グッズによる低温やけどのリスクは非常に高いことが分かります。
また、例えば、使い捨てカイロを貼ったままコタツに入るなど、2種類以上の暖房グッズを同時に使用すると、想定されている以上の高温になることがありますので、2種類以上の暖房グッズを同時に使わないようにしましょう。
特に、高齢者や糖尿病の患者さんでは、神経の働きが悪くなっているため、温度の感覚が分からないことが珍しくありません。このため、気付かないうちに低温やけどが生じてしまうのです。この他、睡眠中や飲酒後などでは健康な方であっても感覚が鈍くなるため、低温やけどをきたすことがあります。
低温やけどの予防
低温やけどにならないためには、次のようなことに注意して暖房器具を利用しましょう。
- 肌に直接接して使わないようにする。
- 暖房器具を使用したまま寝ないようにする。
- 同じ場所で長い時間使わないようにする。(高齢者や糖尿病の患者さん、乳幼児については、周囲の配慮が必要)
- 暖房器具を使用していて違和感や熱さを感じたら、すぐに使用をやめる。
- 使い捨てカイロは目的以外の部分で使わない。
- 暖房器具の製品説明書をよく読んでから使用する。
低温やけどの治療
Ⅰ度(表皮熱傷)
表皮に留まっている場合であれば、流水での冷却によって十分な効果が得られます。炎症を抑えるような軟膏やクリームを用いると、さらに効果的です。3~4日で治り、後遺症などは残りません。
Ⅱs度(真皮浅層熱傷)
同じく基本は冷却です。水ぶくれが破れて皮膚が剥がれてしまうと、そこから細菌が入り込んで感染が起こる可能性があるため、消毒や抗生物質が含まれた軟膏が用いられます。
感染から傷口を守るため、やけどの部位はカーゼやテープなどで保護します。2~3週間で治り、後遺症なく治癒します。Ⅱ度以上では感染のリスクが高いため、病院での処置が必要です。
Ⅱd(真皮深層熱傷)、Ⅲ度(皮下熱傷)
真皮深層までやけどが及ぶと皮膚は再生されず、やけどの部位は次第に腐っていきます。こうなると感染源になってしまうため、死んだ組織を取り除く外科的な処置(デブリードマン)や、その部位を覆うための植皮が行われます。Ⅱd度では治るまでに3~4週間、Ⅲ度ではそれ以上の期間を要します。
また、傷が治る際に皮膚が盛り上がったり、あるいは周囲の組織を巻き込んで引きつれるような瘢痕(はんこん)が残ったりすることがあります。関節周囲に瘢痕が残ると、可動域が制限され、身体機能に障害をきたす可能性があります。
まとめ
低温やけどは、熱いと感じないものに対して、気付かないうちにやけどしてしまうものです。
「使い捨てカイロは直に張らない」「湯たんぽや電気あんかを使用する際は厚手のバスタオルを使用して、同じ部位が触れ続けないよう適宜位置を変える」「暖房グッズは布団を温めるためだけに使って、就寝中は取り出す」など、工夫することが大切ですね。
低温やけどがⅠ度に留まる例は少なく、多くの場合で見た目に反して進行してしまっています。救急外来でも注意を要する疾患の1つです。
痛みを感じなくても、それは神経まで焼けてしまっているせいかもしれません。低温やけどかもしれないと思ったら、軽そうに見えても早めに医療機関に受診して適切な処置を受けましょう。
[カテゴリ:皮膚]