更新日:2017年09月11日
多血症とは
多血症(赤血球増多症)とは、血液中の赤血球数が増えすぎる病気で、赤血球増加症とも呼ばれています。
症状として、頭痛やめまい、顔面の紅潮などが見られることがありますが、多くの場合は、自覚症状がなく、健康診断等における採血検査によって偶発的に発見されます。
多血症というと血の量が多い病気だと考える方もいますが、実は血の量の問題ではなく、濃さが問題になる病気です。
医学的に血の量が多い状態というのは、赤血球数(RBC)、ヘモグロビン値(Hb)、ヘマトクリット値(Ht)が増加した状態のことを指します。
具体的な目安・基準としては、以下の表よりも値が高い場合に多血症と診断される可能性があります。
男性 | 女性 | |
---|---|---|
赤血球数 | 600万/μL | 550万/μL |
ヘモグロビン値 | 18g/dL | 16g/dL |
ヘマトクリット値 | 51% | 48% |
多血症の分類
多血症は大きく2つに分けられます。
- 赤血球数自体が増えている場合(絶対的赤血球増加症)。
- 赤血球数自体は増えていないものの、血液の量自体が減っているため相対的にその中に含まれる赤血球の量が増えている場合(相対的赤血球増加症)
1. 絶対的赤血球増加症
絶対的赤血球増加症は、真性多血症・二次性赤血球増加症に大きく分けることができます。(また、その他にストレス性多血症というものもあります。)
真性多血症
真性多血症は、赤血球のもとになる細胞(造血幹細胞)の異常によって、赤血球の絶対数が顕著に増える病気です。日本における真性多血症の発症率は10万人に2人で、50~60歳代の男性に多く見られます。
遺伝子変異(例えば、Jak2 V617F変異体など)による赤血球の増殖を促すエリスロポエチンの受容体異常が原因と言われています。
通常は、エリスロポエチンが受容体に結合することによって、赤血球を作る指令が伝達されていきますが、真性多血症では、エリスロポエチンが受容体に結合していなくても、増殖に関するシグナルが伝達されてしまい、赤血球が作られ過ぎて、真性多血症を発症します。
真性多血症の特徴としては、血球系の元になる細胞(造血幹細胞)に異常があるため、赤血球以外の血球(白血球や血小板)の増加も同時に見られることがあるという点です。報告によりばらつきはありますが、白血球数増加は20-40%、血小板数増加は50-60%にみられるとされています。
二次性赤血球増加症
二次性赤血球増加症は、何らかの別の病気によって、エリスロポエチン(EPO)という赤血球を増やすための伝達物質が多く作られてしまうことで、赤血球数が増加するものです。
真性多血症と異なり、あくまで赤血球を増やす伝達物質が過剰に作られているだけですので、白血球数や血小板数は正常です。
二次性赤血球増加症が起こる原因としては、酸素欠乏やエリスロポエチン産生腫瘍(腎臓がんや肝臓がんで見られることが多い)などがあります。
高地など空気の薄い環境で生活した場合や肺の病気などで肺での酸素取り込み能力が低下したり、心臓の病気などで血流が悪くなると、体は酸欠状態となります。すると、体は少ない酸素を効率よく全身に運ぶためにエリスロポエチンを産生し、赤血球を増やして対応します。
マラソンなど長距離走の選手が高地トレーニングを行うのは、このメカニズムを利用して赤血球を増やし、体の酸素運搬能力を高めることが目的です。
2. 相対的赤血球増加症
これは、血液成分のうち、液体成分である血漿が減少することによって起こります。
分かりやすく説明すると、1Lの水に砂糖が10g溶けているとします。水が蒸発して水分量が減って、500mlになったとすると、水500mlあたりに10gの砂糖が溶けている溶液になりますので、濃さは2倍になりますね。相対的多血症では、それと同じことが体の中でも起こっています。
つまり、赤血球の数は増えていないのですが、血液中の水分(血漿)が減少したことで、血液中に占める赤血球の量が多くなった状態が相対的赤血球増加症です。
原因の多くは、脱水、嘔吐や下痢、汗などによって、体の中の水分が減ることによって起こります。
多血症の症状と予後
多血症は、多くは健康診断などの採血検査の際に、偶然発見されますが、症状が出ることもあります。赤血球が増えること、またそれによる血液の粘ちょう度(ドロドロ具合)の上昇によって、頭痛やめまいがしたり、高血圧が起こったり、顔が赤くなったりするような症状が出ることがあります。
真性多血症においては、白血化(血液腫瘍を発症すること)や骨髄線維症などを起こすこともあります。
多血症の症状
- 赤ら顔
- 目の充血
- 頭痛
- 耳鳴り
- めまい
- 血栓症(心筋梗塞や脳梗塞など)
その他、真性多血症では、胃潰瘍、高血圧、皮膚のかゆみ、内出血等の出血傾向がみられる場合や、他の血球系統の異常が起こることで、さまざまな症状が出ます。
多血症の原因
真性多血症の原因
遺伝子変異(Jak2 V617F変異体など)による赤血球の増殖を促すエリスロポエチンの受容体の異常が原因で、恒常的に造血シグナルが伝達され、多血症が起こります。
二次性赤血球増加症の原因
- 空気の薄い高地での生活
- 肺胞の異常や慢性の閉塞性肺疾患等による、肺の酸素取り入れ能力の低下
- 心臓・血管疾患による酸素運搬不足
- 喫煙による一酸化炭素ヘモグロビン症
- 赤血球の機能異常など
これらの原因によって、組織に酸素がきちんと運ばれなくなり、慢性の酸欠状態になると、酸素を効率よく体全体に送ろうとするため、「赤血球を増やす」指令が飛び交い、多血症の状態になります。
また、エリスロポエチン(EPO)を作り出す腫瘍、または腎組織の異常によってEPOの量が増えることでの多血症を発症します。
相対的赤血球増加症の原因
脱水、嘔吐や下痢、汗などによって、体の中の水分が減ることによって、血液が濃縮されることで起こります。
多血症の検査と診断
血液検査
まずは血液検査を行います。特に、血算といって、赤血球数・ヘモグロビン値・ヘマトクリット値・白血球数・血症板数などの血球系細胞について詳しく調べます。
乳酸脱水素酵素(LDH)、尿酸、VitB12が高い値を示し、血中エリスロポエチン濃度が低い場合は、真性多血症の可能性を考慮する必要があるため、乳酸脱水素酵素(LDH)、尿酸、血中エリスロポエチン濃度、VitB12なども測定します。
胸部レントゲン検査
エリスロポエチンが多く作られることが原因となる二次性赤血球増加症の診断において、心臓や肺の状態を評価するために行います。肺疾患の正確な評価のため、胸部CTを行うこともあります。
腹部CT検査/腹部超音波検査
腎臓に腫瘤が無いか、脾腫(血液の貯蔵庫である脾臓が腫れていること)があるかなどを調べます。
これら以外に、骨髄染色体分析、Jak2遺伝子変異の検査などを行うこともあります。
多血症の治療法
血液粘稠度を下げて血液をサラサラにすることで、血液中に血栓ができるのを予防することが治療の主体となります。
具体的な治療方法としては、化学療法(ルキソリチニブやハイドレアなどの抗がん剤の投与)、瀉血(血を抜くこと)、抗血小板薬(アスピリン)の内服などを行います。
また、二次性赤血球増加症などのように、何らかの原因があって赤血球が増えている場合は、その原因を治療することが必要となります。
多血症の予防法
真性多血症は遺伝子変異が原因ですので、予防することは困難です。
二次性赤血球増加症を予防するには、禁煙することで呼吸器疾患にならないようにしたり、血圧や糖尿病の管理をして心疾患にならないようにしたり、腎臓に腫瘍ができていないか定期的に超音波検査を受けたりすることが重要となります。
相対的赤血球増加症を予防するには、脱水にならないように気を付けることが大切です。
まとめ
人間の体にとって、酸素は非常に重要なものです。酸素が不足するとエネルギーを作る効率が著しく低下し、体の働きを保つことができなくなってしまいます。そのため、人間の体には酸素運搬能力を維持する仕組みが備わっています。
そうした機構に異常が生じたり、過度にその代償機構が働いたりすることで、多血症が起こります。初期の段階では検査を受けないと分かりませんので、いつのまにか多血症が進行して血液がドロドロになっていた、などということが無いように、定期的に血液検査を受けることが重要です。