更新日:2017年11月22日
目次
破傷風とは
破傷風とは怪我をしたときに、傷口から「破傷風菌」という細菌が体の中に入ることで起こる感染症です。
体内に入った「破傷風菌」によって、毒素が作られ、全身の筋肉のけいれんがおこります。感染者の2割から5割ほどが死亡するという、危険な病気です。
日本でも1950年頃には2,000人近くの感染者がいて、当時はそのうち約8割が死亡するというものでした。
1952年からはワクチン接種が始まり、1968年にはジフテリア、百日咳に破傷風を合わせた三種混合ワクチンの定期接種が始まりました。(2012年以降は不活化ポリオワクチンを加えた四種混合ワクチン)
ワクチンの接種が始まってからは感染者や死亡者は減少していますが、破傷風自体は死亡率が高く、危険な感染症であることに変わりはありません。
1991年以降にも感染者の報告がある
実際に、1991年以降の日本でも、1年間に30~50人程度の感染者が報告され、その95%以上が30歳以上の成人となっています。
また、破傷風の発症しやすい時期としては、夏や湿度のある季節に多く、冬や乾燥した時期には少ないことがわかっています。
破傷風の3つの型
破傷風には、局所型、脳型、全身型の3つの型が存在します。
局所型
破傷風菌が侵入した傷口付近の筋肉のこわばりが何週間も続き、その後は軽快していきます。
局所型破傷風は多くはみられませんが、全身型破傷風に先駆けて生じることがあります。
死亡率は1%程度とされています。
脳型
中耳炎や頭部外傷によって感染して、脳神経の障害を引き起こします。発症率は少ないですが、全身型破傷風に移行する場合があります。
全身型
破傷風の80%ほどがこのタイプとなります。
顎や首のあたりの筋肉のこわばりからはじまり、全身の筋肉のこわばりや全身のけいれんに移行し、重い症状を引き起こします。
発展途上国などに多い新生児破傷風
新生児破傷風は発展途上国に多くみられ、出生時の臍の緒を切断する際に、不衛生な医療器具や処置により感染すると言われています。
1~2週間の潜伏期間があり、新生児の吸乳力の低下などがみられます。発病すると10日以内に死亡することが多くなります。(死亡率は60~90%)
なお、2008年に日本でも1例の報告があります。(感染症情報センター病原微生物検出情報2008年2月号)
予防接種・ワクチン
発病者のほとんどはワクチンを接種していない
アメリカの感染者の多くは、産まれてから一度も破傷風ワクチンを受けていない人や、ワクチンを受けていても、接種から10年以上経過している人が多いことがわかっています。
ワクチンを接種することで、ほぼ100%抗体をつけることができます。一方で、自然に抗体がつくことや、一度感染したことで抗体がつくということはありません。
生後3か月になったら、四種混合ワクチン(DTP-IPV)をうけましょう
日本では破傷風の予防接種に、百日咳・破傷風トキソイド・ジフテリア・不活化ポリオの乳児用の四種混合ワクチン(DTP-IPV)があります。
生後3か月から接種することができます。
乳児期に破傷風菌に感染すると重症になりやすいため、生後3か月になったら、かかりつけの小児科などで早めに接種するようにしましょう。
*破傷風トキソイドとは・・・破傷風トキソイドは破傷風菌から、毒素をとりのぞいて無毒化したワクチンです。破傷風トキソイドを注射することで、体内に抗体が作られ、感染を防ぐことができます。
標準的な予防接種のスケジュール
第1期初回接種
乳児用の四種混合ワクチン(DTP-IPV)は生後3か月~12か月までの間に、3~8週間間隔で3回接種します。
さらに12~18か月後に、第1期追加接種を1回接種します。
第2期接種
乳児用の破傷風とジフテリアの混合トキソイド2種混合(DT)を、11歳以上~13歳になる1日前までに1回接種します。
予防接種は10年で抗体がなくなる
予防接種を受けても10年以上が経過すると抗体がなくなり感染の恐れがでてきます。
予防接種から5年以上経過している人が、怪我などにより感染の危険がある場合にはワクチンを接種することがあります。
一度もワクチンを接種していない人は、怪我をしてからワクチンを接種しても効果がありませんので、早めに医療機関でワクチンの接種をすることをお勧めします。
怪我をしやすい職業の人は追加ワクチンを
屋外環境作業者(農業・工事現場・清掃など)やスポーツ選手など、怪我をする可能性の比較的高い仕事をされる人は、抗体維持のために、追加ワクチン接種をお勧めします。
海外へ行く際には早めのワクチン接種を
海外渡航・海外出張・海外留学・海外旅行が決まったら、早めにワクチンの接種をしましょう。
破傷風は世界中の国にある菌ですので、ワクチンを受けてから5年〜10年が経過している人や、一度もワクチンを接種していない人はワクチンを受けるようにしましょう。
最寄りの医療機関や検疫所などでご相談ください。
妊娠中・授乳中の予防接種は緊急性のある場合は可能
妊娠中・授乳中であっても、外傷などがあり緊急性が高い場合はワクチンの接種が可能です。(原則は接種しません。)
ただし、投与は慎重に行われるべきものですので、医療機関とよく相談する必要があります。
予防接種の費用
乳幼児・小児期に定められた期間に四種混合と二種混合を接種(定期接種)する場合には無料となります。
また、怪我などの治療として行う場合の予防接種は保険が適応されます。
定期接種の期間を過ぎた場合や、海外旅行などに行く際に受ける場合は自費接種となります。
費用は受ける病院や施設によって異なりますので、各医療機関にご確認ください。
予防接種の副作用
予防接種の副反応
副反応には、主に次のようなものがあります。
- 局所の発赤・腫れ・疼痛・硬結(皮膚が硬くなった状態)
- 発熱・悪寒
- 頭痛
- 倦怠感
- めまい
- 関節痛
- 下痢
ほとんどの場合、2~3日ほどでおさまりますが、局所の硬結は1~2週間残ることもあります。
2回目の接種時に副反応が、1回目よりも強く出る場合もありますが、これも通常は数日でおさまります。
また、重大な副反応としては、極めてまれですが、全身発赤・粘膜の腫れ(目、口、舌など)・呼吸困難・血小板減少性紫斑病・脳症・けいれんなどのショック、アナフィラキシーショックなどの症状がでることもあります。
事前に医師に相談を
以前に予防注射をうけて具合が悪くなったことがある人や、妊娠または授乳中、他に急性疾患や薬などを使っている人、1ヵ月以内に他の予防接種を受けた場合には、接種前に医師にご相談ください。
原因・感染経路
破傷風菌は世界中に存在しています。土の中、家畜やペットの便の中、ヒトなどの腸の中にも生存しています。
破傷風菌は偏性嫌気性菌といって、酸素のある場所では生きられないのですが、普段は乾燥や熱・紫外線・酸素・薬剤に高い抵抗性を持つ「芽胞」という形で生存しています。
破傷風の芽胞は、121度で15分加熱しても生き残るほどの強い耐性力があります。ただし、この状態では毒素を出したり、増殖するなどの活動をしていません。腸内でも無害な常在菌として存在します。
しかし、いったん人間の傷口に侵入すると、破傷風菌の芽胞は変化し、増殖して毒素を作り出すようになります。そのため、転倒したり、土を触る作業などを行っているときに、傷口から感染することが多いのです。
その他に、穿刺傷、火傷、虫刺され、浅い傷、歯科感染、開放骨折、薬物の静脈内注射なども感染経路となることがあります。
人から人へは感染しない
破傷風菌は人から人へ感染しませんので、破傷風の発病者と接触をしても問題はありません。
破傷風菌には2種類の毒素がある
破傷風菌は神経毒(テタノスパスミン)と溶血毒(テタノリジン)の2種類の毒素を作り出します。
その毒素は、血液やリンパ液を通じて体内に広がっていきます。
主に、神経毒(テタノスパスミン)は、脳神経・中枢神経・末梢運動神経・脊髄・交感神経などの神経系に結びついて、障害を引き起こします。
その結果、筋肉の強直や全身のけいれん、自律神経系の異常な症状がおこります。
潜伏期間
潜伏期間は3日から1か月以上と幅がありますが、平均的には1~2週間程度とされています。
破傷風の症状が出たときは、傷口がすでに治っていることも多く、感染部位がわらないことが多くあります。
検査・診断
破傷風特有の強直性けいれんにより、診断されることがほとんどです。
その他、特有の症状と外傷歴、ワクチン接種歴などを踏まえて判断していきます。
破傷風菌は少ない数で感染するため、体内に侵入した破傷風菌を見つけることは困難とされています。
また、潜伏期間のところでも述べましたが、感染しても菌の侵入した傷口が明確でないことが多くなります。
侵入口は診断において重要ではありますが、早期発見・早期診断が最も重要であり治療の鍵になります。
破傷風の症状
第1期(初期症状)
潜伏期間を経て次のような症状が出てきます。
- 首筋が張る
- 食べ物を噛むと疲れる
- あごのあたりが痛い
- 舌がもつれる
- 傷口付近の異常
- 全身のだるさ
- 不眠
- 歯ぎしり
- 寝汗など
第2期
この時期までに適切な治療が行われれば、命が助かる可能性が高くなります。この時期の主な症状は次の内容になります。
- 口が開けにくくなります。(開口障害)
- 顔面の硬直や筋肉が緊張した状態になり、おでこに「しわ」がよった状態になります。
- 破傷風顔貌といって唇が横に広がって、歯が露出します。
- 引きつり笑い(痙笑)のような表情をする症状がでます。
第3期
この時期がもっとも命の危険がある状態になります。
- 物が飲み込みにくい
- 言葉が出づらい
- 排便や排尿が困難
- 呼吸困難
- 不整脈や血圧の変動
- 頸部の筋肉の緊張から、頸部硬直がみられる
- 首・背中・胸・腹などの筋肉が少しの刺激(日光、騒音等の刺激)でけいれんする
- からだを弓のように反り返らせ、手足がつっぱるような全身の強直性けいれんをおこし、強い痛みも伴う
- けいれんの力は強く、背骨や四肢の骨が骨折することもある
意識異常はなく、はっきりしているため、患者さんは身体的・精神的にも、とてもつらい状況となります。また、重篤な状態になると呼吸筋の麻痺により窒息死することがあります。
第4期(回復期)
第3期のけいれん発作が続いたあとに、少しずつ快方に向かいます。
全身けいれんは見られませんが、筋肉の強直や腱反射の亢進はまだ残っている場合があります。
治療・薬
破傷風は早期発見・早期治療が重要です。主な治療や薬は次のようになります。
TIG療法(抗破傷風ヒト免疫 グロブリン療法)
破傷風の毒素を中和させる抗毒素血清(抗破傷風ヒト免疫グロブリン)を注射します。
神経系に一度結合してしまった破傷風の神経毒素(テタノスパスミン)は離れることができなくなるため、TIG療法は初期の段階でなければ効果がなく、病状が進行していきます。
このことから、破傷風を早期に診断して、治療を開始することが重要になります。
デブリードメント
感染した患部組織を外科的に切除します。
患部の洗浄
感染部位の十分に洗浄します。
対症療法
破傷風菌に対しては抗菌薬を使用し殺菌します。しかし、抗生物質は破傷風菌が作り出した毒素には効果はありません。
けいれん発作には鎮静薬を使用。呼吸困難には人工呼吸器を使用して呼吸の管理をします。
入院治療・期間
光や騒音の刺激をさけるため、静かで暗いお部屋で、入院治療をする場合があります。入院期間は3~5週間ほどになります。
回復した後に破傷風トキソイド接種をします
破傷風に感染した後でも破傷風の抗体はつかないため、回復後に破傷風トキソイドの接種をすることがあります。
治療の経過・予後
破傷風の第1段階(初期症状)から第3段階(全身けいれん症状)が始まるまでを「オンセットタイム」と言います。
オンセットタイムが48時間以内で短い間隔であるほど、予後が悪くなることが多いとされています。
その他に、感染者の年齢、健康状態、免疫の程度、破傷風菌の毒素の量によっても予後は異なってきます。
破傷風かなと思ったときの対応
破傷風菌は世界のどの地域で存在する菌ですので、誰もが感染する可能性があります。
怪我をしたときは傷口を十分に洗い流すようにしましょう。
特に汚れがひどい場合や、異物が入っている場合は、外科を受診することをお勧めします。
破傷風の可能性がある場合は、早期に抗毒素血清(TIG療法)の注射が必要になりますので、早急に医療機関を受診しなければなりません。
麻痺やけいれん発作、呼吸困難などの症状がある場合(第3期の症状出現)は、非常に危険な状態ですので、すぐに救急車を呼んでください。
看護師からひとこと
破傷風菌は身近に存在する菌で、感染すると非常に恐ろしい病気ではありますが、予防接種をすることで、感染を防ぐことができます。
乳幼児の予防接種をスケジュール通りに接種することが大切で、一度でも接種忘れがあると十分な抗体がつきません。
これまでに一度もワクチンを受けていない人は、ぜひ受けるようにしましょう。
また、接種から10年以上たつと、免疫が少なくなっている可能性があるため、怪我をしたときは十分な注意が必要です。
傷口を汚れたまま放置したりせずに、清潔にして、すぐに外科などを受診されることをお勧めします。
参考文献・サイト
- 家庭医学大辞典 小学館
- 国立感染症研究所
- 国立感染症研究所 資料
- 厚生労働省
- 横浜市衛生研究所
- 日本旅行医学会