更新日:2017年05月28日
狭心症とは?
会社の健康診断が近づくと、「狭心症」が気になってくる人がいます。狭心症とはどのような病気なのでしょうか。
心臓は、心臓を冠のように覆っている冠動脈を流れる血液によって酸素や栄養が与えられ、1日に約10万回、生涯休みなく動き続けるポンプです。
加齢や不規則な生活習慣などによって冠動脈の血管壁にコレステロールが溜まると、血管の内側が狭くなり十分に血液が流れなくなります。
その結果、心筋細胞が酸欠状態となり、心臓がSOSを発して胸痛や胸の圧迫感が生じるようになります。
この症状を狭心症と呼んでいます。
狭心症は長くても15分程度で消えてしまいますが、冠動脈がさらに狭くなって血管を完全にふさいでしまうと、その部分の心筋細胞が壊死してしまいます。この状態を急性心筋梗塞と呼びます。
また、このような冠動脈が詰まってしまって心筋に血液が循環しなくなることから生じる病気を「虚血性心疾患」といい、狭心症や心筋梗塞、虚血性心不全などが含まれます。
狭心症の種類
狭心症の種類は、大きく3つに分類できます。そして、発作の起こり方や病状の経過により、分類することができます。分類は以下の表をご覧ください。
発作の起こり方 | 病気の経過・状態 | |
---|---|---|
労作性狭心症 | 運動や力仕事をしたとき | 運動や力仕事をやめると治まる |
異型(冠攣縮性)狭心症 | 運動をした時とは限らない。安静時にも発作が起きる可能性がある。 | 夜間・早朝に多い。 |
不安定狭心症 | 症状の頻度や持続時間が悪化していく。安静時にも発作が起きる可能性がある。 | 発作が起きるのが一定のタイミングではない。 |
例えば、発作の起こり方から見ると、身体を動かしたり、緊張したりすることなどにより精神的に興奮することで、心臓がドクドクと動いて心拍数が増加するときに発症するのが「労作性狭心症」となります。心筋の仕事が増えることによって発作が起きるタイプのものです。
一方、「異型(冠攣縮性)狭心症」と「不安定狭心症」は安静にしていて心臓にあまり負荷がかかっていない状態でも発作がおきるもので、「安静時狭心症」に分類されます。
3つの狭心症について、簡単に説明していきます。
労作性狭心症
階段を上がったり、急いで歩いた時などに、胸の痛みが起こることはありませんか?
運動などによって心筋の動きが盛んになると、十分な酸素と栄養素が必要になるため冠動脈が広がって血流が増加します。
しかし、動脈硬化によって冠動脈が狭まっていると、心筋に十分な血流を送り出すことができなくなります。その結果、心臓の動きに見合っただけの酸素や栄養素が供給されなくなり、心臓からのSOS信号として狭心症の発作が起こります。
労作狭心症は安静にして心臓への負荷が減少すれば回復するため、多くは1分から10分程度、長くても15分以内で症状が治まります。また、労作狭心症の大部分は、発作の起こり方が一定していますので、「安定狭心症」に分類されます。
異型(冠攣縮性)狭心症
「冠攣縮」とは、冠動脈のけいれんのことを意味しています。労作性狭心症と異なり、運動やストレスなどに関わらずに起こる狭心症です。深夜から明け方にかけて多く発生しますが、飲酒したりタバコを吸ったりしている時に症状が現れることもあります。
不安定狭心症
こちらは、上の2つとは病状の経過・状態が異なっています。安定と不安定の違いは、症状がいつ発生するのか、どのような症状が出るのか、その症状の重さや長さがどの程度なのかを推測できないということです。状態が安定せず、1日に何回も発作が起こることもあります。
これは、心筋梗塞になる手前の状態ともいえるため、すぐに医療機関での診察を必要とする状態です。この段階ですぐに治療を受けないと非常に危険といえます。
症状
狭心症の代表的な症状には次のようなものがあります。
- 胸が圧迫されるように重苦しい
- 胸の奥が痛む
- 胸がしめつけられる
- 胸が焼け付くように痛い
痛みの程度は、違和感程度のものから、冷や汗が出るほどの強いものまであります。ふつうは1分から10分以内に症状は消失します。
また、胸の中央部が痛むことが多いのですが、放散痛といって胃のあたりや背中が痛んだり、のどの痛みが出たり、歯が浮くような感じ、嘔吐、呼吸困難、冷や汗、左肩から腕にかけてのしびれなどの症状がでることもあります。糖尿病を患っていて神経障害がある場合には、症状を軽く感じる傾向があるので注意が必要です。
また、運動などをしていないのに突然痛みだし、30分以上、強い痛みや締め付け感が続く場合は、狭心症から心筋梗塞に進行している可能性があるので要注意です。
原因
狭心症の原因は、加齢や不規則な生活習慣などによって冠動脈の血管壁にコレステロールが溜まり、血管内が狭くなって(血管狭窄)血液が流れにくくなることです。
血管狭窄の原因は、糖尿病、脂質異常症、高血圧などによって引き起こされる動脈硬化です。
予防法
狭心症の発作を予防する方法とは、つまりは動脈硬化を予防することになります。動脈硬化の予防には、次のことが必要です。
禁煙
たばこを吸うと、血管の収縮やコレステロールや中性脂肪の酸化が進み、その結果、動脈硬化をもたらします。また、たばこを吸うことによって血圧が上がって脈拍が増えるため、狭心症の原因となる「心筋への負荷」を増加させることになります。
バランスの良い食事
日本では、欧米に比べて心筋梗塞や狭心症が少ないと言われていました。
その理由は、欧米型の食事と比較して脂肪分が少ない伝統的な和食にあります。狭心症を予防するためには、塩分・脂肪分・糖分の過剰摂取を抑えることが大切です。
実は、和食は味噌や醤油などを使うため比較的塩分は多いのですが、塩分を排出するカリウムを多く含む海草などを頻繁に摂取しているため、狭心症も少ないと言われています。
塩分は成人男性で1日8グラム以下、成人女性で1日7グラムに抑え、インスタント食品、ファストフード、糖分の多いペットボトル飲料の摂取を控えてバランスの良い食生活を心がけましょう。
ストレスの解消
心臓への負担は、運動などといった身体的な負荷だけではなく、過度の緊張やストレスといった精神的なものによっても増加します。自分に合った気分転換方法を見つけ、適度にストレスを発散できる環境を作ることも大切です。
適度な運動
疲れない程度のウォーキングなどの軽めの運動を週3~4回、30分以上行うことが動脈硬化・狭心症の予防として効果的です。冠動脈が収縮している早朝や深夜を避け、起床後1時間以上経過した後で行いましょう。
お風呂のお湯はぬるめで
サウナや高温の風呂は、心臓への負荷が大きいうえ、脱水により血液がドロドロとした固まりやすい状態になるため危険です。動脈硬化・狭心症の予防には、お風呂はぬるめが基本です。
また、寒暖差のある場所へ行く場合も、心臓に負担がかかることがあります。お風呂場と脱衣所との温度の差をなくしておくことも狭心症の予防になります。
診断
心電図
狭心症の場合、発作時には心電図に異常がみられることがありますが、安静時は正常なことも多く、発作が出ても病院に運ばれるころには正常に戻っているため、心電図のみでの診断は困難です。一方、心筋梗塞では特徴的な心電図の変化が現れるので診断は容易です。
運動負荷心電図
狭心症では発作時にのみ心電図に異常が現れることも多いので、運動をしながら「負荷心電図」を取ります。階段昇降(マスター法)、ランニングマシン(トレッドミル法)、自転車こぎ(エルゴメーター法)などの負荷を与えると、狭心症によって心筋に十分な酸素供給ができない場合、典型的な心電図変化が表れます。
ホルター心電図
小型の機械で日常生活における心電図を24時間記録し、深夜から明け方に症状が起こる異型狭心症を診断します。
冠動脈造影検査
カテーテルと呼ばれる細い管を手足の動脈から挿入して心臓の血管内へ送り込み、カテーテルを通じて造影剤を血管内に注入し、冠動脈を撮影します。
また、カテーテルは検査だけではなく、カテーテルの先端にバルーンを取り付け、冠動脈の狭くなった部分や閉塞した部分でバルーンを膨らませて、冠動脈を広げる「バルーンによる冠動脈形成術」にも使われています。
冠動脈CT検査
腕から造影剤を注入して、X線によって冠動脈の状態をコンピュータ画像により、3Dで確認することができ、冠動脈や心臓の状態を詳しく見ることができます。
心臓の状態を確認するものとしては、上のカテーテルを使用した冠動脈造影検査がありますが、それと比較すると体への負担が少なく安全で、短時間で行うことができます。また、入院の必要もなく、外来で検査することが可能です。
心臓核医学検査(心筋シンチグラフティー)
運動や薬剤によって心臓に負荷をかけて検査を行います。安静にしているときと負荷をかけたときの心臓の状態を確認します。
心臓MRI検査
体に負担のない検査になります。強力な磁石と電波により、心臓をコンピュータで画像化して、検査します。
血液検査
狭心症の場合、血液検査に異常は見られません。症状が心筋梗塞まで進行している場合、壊死した細胞から「クレアチンフォスフォキナーゼ」(CPK)などの酵素が血液中に漏れてきます。
心筋梗塞の発作後、4~5時間たってから酵素が血液中に増えてくるので、血液検査によって診断することができます。心筋梗塞の場合はGOTやGPT、そしてトロポニンの値が上層します。
特にトロポニンは、心筋が壊死した場合に血液中で増加します。3時間以上経過してから増加することから、心筋梗塞の初期では見られないことがあります。
治療法
狭心症の治療は薬物療法が基本です。
発作時には、ニトログリセリンなどの即効性を有する薬を服用し、発作を鎮めます。日常的には、禁煙、肥満解消、高血圧、糖尿病、脂質異常症(高脂血症)などの予防が治療の1番の近道です。
薬物療法
冠動脈や末梢の血管を広げて血圧を下げ、心臓の負担を軽減するニトログリセリンなどが主に処方されます。発作時に服用するタイプのものは舌下剤とスプレーが一般的です。
ニトログリセリンは、舌下に含むと数分ほどで吸収されて痛みが抑えられ、20分から30分程度続きます。5分おきに3回ほど服用しても痛みが治まらない場合、心筋梗塞になっている可能性がありますので、大至急医療機関へ向かってください。
その他の主な薬物として以下のものがあります。
- ニトログリセリンの他に冠動脈を拡張させる薬にカルシウム拮抗薬
- 心筋の酸素消費を減らす薬にはニトログリセリン、β遮断薬、カルシウム拮抗剤
- 血液をサラサラにする薬(抗血小板薬)としてはアスピリン
薬による副作用
狭心症の薬による副作用は、血管の拡張による頭痛、顔面紅潮のほか、めまい、動悸、頻脈、血圧低下などがあります。
心筋梗塞の場合
薬物療法では治療できない心筋梗塞などでは、カテーテルの先に取り付けたバルーンを血管内で膨らませて冠動脈を押し広げ、ステントとよばれる金属製の網状の筒をさしこむカテーテル治療や、外科手術によって冠動脈に他の血管を繋いで、狭窄した冠動脈の替わりの血液の供給路を作る冠動脈バイバス術などの手術が行われます。
狭心症に関する動画
狭心症について、国際医療福祉大学病院が提供している動画がありましたので、掲載しておきます。とてもわかりやすい解説です。
看護師からひとこと
狭心症のある方は日常的にニトロを携帯するようにしましょう。
財布やポケット、枕元、居間などの場所にそれぞれおいておくことで、発作時にすぐに対応することができます。
まとめ
タイプ
大きく3つに分けられますが、中でも発作の起こり方で分類すると、運動や精神的な緊張などによって心拍数が上がり、心臓に負荷がかかって発作が起こる労作狭心症と、安静にしていて心臓にあまり負荷がかかっていない状態でも発作が起こる安静時狭心症に分けられます。
安静時狭心症のうち、運動などをしなくても1日に何度も発作を繰り返す不安定型狭心症は、心筋梗塞症につながりやすいので要注意です。
予防のために心がけること
狭心症の原因は動脈硬化。日頃から禁煙と適度な運動、規則正しい食生活を心がけ、肥満解消、高血圧、糖尿病、高脂血症などを予防しましょう。