更新日:2017年09月21日
統合失調症とは?
統合失調症とは様々な情報を伝達する脳をはじめとした神経系に障害が生じ、幻覚や妄想といった症状が生じる精神疾患です。かつては精神分裂病と呼ばれることがありましたが、現在は「統合失調症」に改名されました(2002年日本精神神経学会において決定)。
統合失調症は人口のおよそ1%という高い頻度で発症する病気です。2008年に実施された厚生労働省の調査では、日本で医療機関を受診している統合失調症の患者数は79.5万人と推計されています。
全体の8割は15歳から30歳の間に発症し、男性の方が多く、女性の発症年齢は遅めです。
若くして発症し、その後も長い期間にわたって経過をたどるため、本人だけでなく家族も含めて、とても大変な病気といえます。
ただし、近年では、新薬およびリハビリテーションなどの心理社会的ケアが進歩してきており、統合失調症患者の約半数は完全な回復が見込まれます。
統合失調症の原因
現在、原因は解明されていませんが、薬物療法を中心とする治療に効果があることがわかっていますので、脳の神経伝達物質の異常が原因の1つにあると考えられています。
神経伝達物質が関係しているという説
ドーパミンという神経伝達物質が過剰に分泌されていることで幻覚や妄想などの症状が出るとする「ドーパミン説」が主流でした。
最近では、グルタミン酸と呼ばれる神経伝達物質の機能異常が背景にあり、本来、グルタミン酸が結合する受容体が活性化しないために、ドーパミンが過剰分泌する神経系と分泌低下する神経系ができ、脳全体としてのドーパミンバランスが悪いことで、幻覚や妄想が出たり、興奮状態になったりする陽性症状と、逆に、意欲や感情がなくなったり、認知機能が低下したりする陰性症状の相反する症状が起こるとするグルタミン説が有力となっています。
また、他の脳内の伝達物質なども関わっているという説もあります。こうした神経伝達物質が作られるのはそもそも遺伝子が関係してくるのですが、具体的な遺伝子の関与についてはわかっていません。
なお、親子で統合失調症を発症するのは1割程度とされています。
ストレスなどの環境因子も関連が考えられる
人には外部からのストレスに対して、それを守る力が備わっていますが、強いストレスによって守りきれなくなるといったことも関連していると考えられています。
災害などの多くの人のストレスになることよりも、人生の転機となるような大きな出来事(婚姻、就職など)、家庭や学校、会社などに伴う個人的なストレスの関連が考えられています。
統合失調症の経過
統合失調症では様々な精神機能の障害が見られますが、前兆期・急性期・消耗期・回復期・安定期と経過ごとに特徴的な症状が生じます。
前兆期
統合失調症のかかりはじめの時期ですが、症状には多くのものが出現します。
前兆期の症状
- 急に身辺が騒がしく感じる
- 不安や焦り
- 音やにおいなどの感覚が過敏になる
- 物事に集中できない
- 眠れない
- 気力がわかない
- 食欲不振
- 頭痛
急性期
脳が働きすぎることで症状が激しくなる時期です。幻覚や妄想といった統合失調症の特徴的な陽性症状が出現します。
不安や恐怖や切迫感などを強く感じ、睡眠不足などにより生活のリズムが乱れて昼夜逆転の生活になることや、周りの人との会話や意思疎通などがうまくいかないなどの状態があわられてきます。
消耗期
急性期に脳が働きすぎた反動で、脳が働かなくなる状態です。著しい眠気や倦怠感を感じることや、意欲や自信がなくなったり、ひきこもってしまったり、感情や表情が少なくなる陰性症状が出現する時期です。
回復期
周囲に対する興味を取り戻し、現実感が出てきます。また、症状は少しずつ治まっていきます。
統合失調症のSST(ソーシャル・スキルズ・トレーニング)やリハビリテーションなどを行う時期でもあります。
ただし、周りが感じるほど元気になっていたり、完治したりするような状態ではなく、本人にしてみれば将来への不安や疲労感を感じています。周囲は焦らず本人を見守るようにすることが大切です。
安定期
安定期が続いていけば、リバビリなどにより社会生活を送れるようになることもあります。ただし、一方では再度前兆期に戻ってしまい再発といった事態も起こりえます。
統合失調症の症状
統合失調症の症状は3つに大きく分けることができます。
- 幻覚やあるはずのないことを信じたりする陽性症状
- 感情の起伏や表情が乏しくなる陰性症状
- 集中力や記憶量が低下する認知機能障害
陽性症状は時間の経過により改善することが多く、陽性症状の改善とともに陰性症状が目立ってきます。
1. 陽性症状
通常はあらわれない特異な体験をする症状で幻覚・妄想の症状が特徴となります。急性期に生じることが多いです。
陽性症状では、ありえないことを言うようになるため周囲の人はびっくりしてしまいますが、薬物療法で比較的治療しやすい症状です。
幻覚
主な幻覚には、誰もいないのに人の声が聞こえたり(幻聴)、実際には見えていないものが見えたり(幻視)します。
統合失調症では、人から話しかけられる、命令される幻聴が起こることがあり、こうした幻聴は、不適切な行動につながりやすく、事件が起こるきっかけになったりします。
幻覚は実際にないものを感じるということだけでなく、外部から自分に対して情報などが入ってくると感じるため、宇宙人から何かされる、脳に何者かが働きかけてくる、といった妄想を抱いたり、何者かにずっと見られている、陰口を叩かれていると感じたりすることもあります。
妄想
現実には起きていないことを信じ込んでしまうことです。特に誰かに悪いことをされていると思いこんだり、自分が他人より優れた人間だと信じ込んだりします。妄想にもいくつか種類があります。
主な妄想の種類
- 被害妄想
被害を受けていると感じるたり、他人から嫌がらせを受けていると感じる妄想です。「みんなが自分をスパイしている」「周囲が自分の悪口を言っている」など。 - 関係妄想
周囲のできごとをすべて自分に関連付けてとらえる妄想です。「自分が家の前を通るたびに近所の人が咳払いをして威嚇している」など。 - 注察妄想
常に誰かに見られていると感じる妄想です。監視や盗聴をされているなど。 - 追跡妄想
誰かに追われていると感じる妄想です。 - 被毒妄想
飲食物に毒が入っていると思い込む妄想です。嗅覚や味覚などが過敏になることから出現することがあります。 - 誇大妄想
自分を偉大であると思い込む妄想です。「自分は世界を動かせる」など。 - 血統妄想
自分はすごい血筋のうまれだと思い込む妄想です。「自分は天皇家の子孫だ」など。
知覚過敏
知覚がとても敏感になることです。例えば、匂いをすごく感じたり、音に敏感になったりします。また、光を強く感じるなどといったこともあります。
思考のまとまりがない
話題が別の話題にそれたり、関連のない受け答えをしたりすることがあります。他人との意思疎通が難しくなってきます。
まとまりのない行動
環境への反応が過剰になる、または無くなるといった行動がみられます。
例えば、大声を出す、暴れるといった過剰な行動、反応がない、無言になる、他人の言う通りに動くといった無反応な行動があります。
陰性症状
陰性症状とは、感情や意欲、思考などがなくなったり、衰弱したりする状態です。今まで好きだったことや関心の強かったことに反応しなくなったり、居住場所の整頓、服装などにも無頓着になったりすることがあります。
意欲がなくなる
積極的な行動が減少します。仕事を始め社会的な活動をしなくなることや、部屋から出てこなくなったり、じっと動かなくなったりします。
思考が減少する
話しかけられてもあまり反応をしなくなったり、会話の内容や会話自体が少なくなったりします。
社交性がなくなる
他人の感情や気持ちを理解できないため、コミュニケーションを取ることを嫌がるようになります。
感情について
これまで好きだったことに対しても興味が薄れたり、感情をうまく表現できなくなります。その他、身振りが少なくなったり、言葉に抑揚がなくなったりします。
認知機能障害
認知機能とは、ものごとを理解したり、判断したり、また論理的に考えたりすることをいいます。計画や判断、問題解決、検討など社会適応には重要な機能です。
ものごとの計画、実行、記憶などの能力が低下し、新しい仕事を覚えられなかったり、作業の進捗が把握できなくなったりします。
その他
統合失調症でもパニック発作が起こることがあります。また、判断基準が確立しないため、価値の違いなどがわからなくなってしまったり、独り言や独笑などがあらわれることがあります。
感情表現が鈍くなるため、顔をしかめたり、眉毛をひそめたりする症状があらわれることもあります。
統合失調症の治療
近年では、外来治療が中心です。また、外来・入院いずれの場合でも、薬物療法とソーシャル・スキルズ・トレーニングなどのリハビリテーションを組み合わせて行うことが一般的です。
薬物療法
統合失調症の治療に用いられる薬は、主に抗精神病薬です。症状によっては、睡眠薬や向精神薬などが使われることもあります。
抗精神病薬には錠剤や内服液、粉末のもの、注射として注入するものなどがあります。主な作用には3種類あります。
- ドーパミンを制御し、幻覚や妄想などを改善する。
- 不安・不眠・興奮などを軽減する(鎮静催眠作用)
- 感情や意欲の障害などの陰性症状の改善(精神賦活作用)
再発防止には継続した服用が大切
症状が良くなったとしても、抗精神病薬はそのまま続けて服用することが大切です。続けていくことで、その後も再発しにくくなるのです。
仮に服用をやめてしまった場合は、数年で6割~8割程度の人が再発するとされます。継続する期間には個人差があります。数ヶ月から数年と人によって幅があります。
1日に何回も薬を飲むというのは、とても大変なことですが、自分だけの判断で薬物療法を中止せず、必ず主治医の指示に従うようにしましょう。
副作用
前段のとおり、抗精神病薬は長い期間の継続的に服用する必要があるため、副作用はとても気になると思います。現在の薬は副作用の出現率は大幅に減少していますが、まったく起きないということではありません。
まず、抗精神病薬の多い副作用は眠気です。そして、錐体外路症状といって以下のような症状がでることがあります。
錐体外路症状
- 落ち着いて座っていられない。
- 体がこわばる。
- 震えたり、よだれが出たりする。
- 口が勝手に動いてしまうなど。
また、肝臓や腎臓への影響、血糖値の上昇や肥満などについても考慮する必要がありますので、血液検査・尿検査・心電図などを数か月ごとに行う必要があります。
こういった症状が出てきた場合には、薬の量を調整するなどの対策を施す必要がありますので、主治医の指示を仰ぐ必要があります。
リハビリテーション
薬物両方と並行して行い、日常生活や社会生活に適応できるようにトレーニングしていきます。特に次の3つについて改善していきます。
1. 人に対すること
相手への思いやり、人ごみの対応など
2. 仕事に対すること
人間関係、集団での作業、集中力など
3. 物事に対応すること
判断力や決断力、積極的な取り組みなど
具体的には、SST(ソーシャル・スキルズ・トレーニング)で、社会生活に必要な基礎訓練を行ったり、パン作りなど物づくりを通して社会に出て働く能力を身に着けさせたり、脳トレーニングを行って認知機能障害の回復をサポートしたりしていきます。
- 日常機能・・・食事、買い物、身の回りの整理など
- 病気の自己管理・・・薬の服用管理など
- 社会生活技能・・・会話のしかたなど
病気の経過、病後など
最新の研究によると、全体の3分の1はほとんど後遺症を残さず、3分の1が適応水準に若干の問題を残しながらも快方に向かい、重度の障害を残すのは10~20%と言われています。
幻覚や妄想などの症状は抗精神病薬が効きやすいため予後がよく、陰性症状は治療の効果が得にくいと言われています。
早期に治療を開始することが重要
発症してから治療開始までの期間によって、病気の経過や予後が変わってきます。できるだけ早期に治療を開始することで、その後の経過も良くなっていきます。
早期に症状に気づくこと、そして早期に治療を開始することがとても需要です。
早期警告サイン(例)
- 不安、緊張、不眠
- 抑うつ、引きこもり、食欲不振
- 脱抑制、攻撃、不穏
- 幻聴、妄想
ただし、本人は自分が病気であるという自覚がありませんので、精神科などの医療機関を受診することを嫌がる方が多くいます。
そのような場合は家族だけでも医療機関を受診して相談することも可能です。また保健所でも相談にのってくれます。精神障害者対象の福祉制度もありますので積極的に利用していきましょう。
看護師からひとこと
統合失調症にかかりながらも、子どもを抱えていたり、きちんと社会生活を送っている人達はたくさんいます。ただし、これには家族や周囲の理解と協力が不可欠です。
まずは病気に対する正しい知識をもち、偏見をなくすことが大事です。
まとめ
統合失調症は決して珍しい病気ではなく、人生の転換期などで発症することがあります。
前兆期には様々な症状がでてきますので、周囲が気づいて、早期に治療を開始することが大切です。
参考サイト・文献
- 統合失調症(みんなのヘルス・厚生労働省)
- 石垣琢磨、橋本和幸、田中理恵(2016)「統合失調症-孤立を防ぎ、支援につなげるために-」サイエンス社