更新日:2017年06月29日
目次
過呼吸(過換気症候群)とは?
過呼吸(Hyperpnea)とは、必要以上に深くかつ早い呼吸を繰り返し、過換気状態となることで、血液中の二酸化炭素濃度が異常に低下することで起こる病態です。
過換気状態となると、血液中の二酸化炭素が大量に排出されて血液がアルカリ性に傾き、息苦しさを感じるとともに、しびれ、けいれん、意識混濁といった神経や筋肉症状を引き起こします。
過呼吸は、呼吸を多く必要とするマラソン・水泳・サッカーといった運動の後に発症するものを含みますが、ここでは精神的な不安などを要因として過呼吸となる過換気症候群を過呼吸として説明していきます。
過換気症候群
過呼吸は、通常は呼吸を多く必要とする運動の後に起こるとされていますが、過換気症候群(Hyper Ventilation Syndrome)は、精神的な不安や緊張などによって過換気状態となるもので、心身症の1つです。
過換気症候群の原因としては、精神的な要因のほか、人工呼吸器装着時における過剰な補助換気、中枢神経の異常、サリチル酸などの薬剤中毒、敗血症などがありますが、日常生活での発症の原因のほとんどは、精神的な不安やヒステリーなどです。
過換気症候群は、几帳面・神経質・心配性といったストレスを受けやすい人に多く見られ、年代では10代や20代の若年層に多いと言われています。
性別では女性の方が発症しやすく、男女比は1:2程度です。
精神的な理由でなく、運動などにより過呼吸になった場合と、過換気症候群とでは発症の原因は異なりますが、症状や対処法などはほぼ同じものとなります。
過呼吸(過換気症候群)の症状
過呼吸(過換気症候群)は血液中の酸素濃度が増えて二酸化炭素の濃度が減ることにより発症します。
過呼吸(過換気症候群)では、突然、呼吸困難を訴えることが多く、程度が強くなるにつれて手足や唇のしびれや呼吸困難、動悸、頭のふらつき、息苦しさ、眠気、激しい耳鳴りや悪寒などの症状が現れ、さらには興奮状態や意識混濁などを生じることがあります。また、呼吸困難の自覚がないまま息が荒くなることもあります。
過呼吸(過換気症候群)は、発作時には激しい症状が出ますが、適切な処置をすれば数分~数十分程度で回復します。
過呼吸(過換気症候群)の原因
過呼吸(過換気症候群)は、過度の不安や緊張、パニック障害などによって引き起こされます。
これらの要因によって呼吸が早くなると、血液中の二酸化炭素の排出が必要量を超えてしまい、血液がアルカリ性に傾いて息苦しくなります。
その結果、脳の延髄が反射によって無意識に呼吸を停止させ、血液中の二酸化炭素を増加させようとしますが、脳の大脳皮質では呼吸が停止したのを異常と捉えてしまい、さらに呼吸させようして悪循環に陥ってしまい発作がひどくなります。
「過呼吸=二酸化炭素の減少」なのですが、それが「酸素の吸いすぎ」というイメージで捉えられており、広く誤った応急処置が行われているようです。
後述する応急処置の項目をしっかり読んでおきましょう。
その応急処置、危険!
目の前に過呼吸(過換気症候群)の患者さんがいた場合、ほとんどの人が「紙袋を口に当てて呼吸させる」といった応急処置を行うと思います。
その理由は、「過呼吸は酸素の吸い過ぎで起こるので、紙袋の中の酸素濃度が低い吐息を吸わせる。」という広く知られている知識のためでしょう。
しかし、この応急処置によって、最悪の場合は命を危険にさらしてしまう恐れがあります。
そのため、現在ではこの方法(ペーパーバック法)は行わないように勧奨されています。
過呼吸(過換気症候群)は二酸化炭素不足
過呼吸(過換気症候群)は、激しい呼吸を繰り返すことによって血液中の二酸化炭素が不足して発症します。
二酸化炭素は、酸素と比べて体にはあまり良くないといったイメージがありますが、そうではなく、血液の酸性度を保つ役割を果たしています。
二酸化炭素が不足してしまうと、めまいや手の痺れ、筋肉硬直などがおこり、最悪の場合は心肺が停止してしまうこともあります。
二酸化炭素が不足 → 二酸化炭素の排出をとめる → 過呼吸悪化
したがって、呼吸のしすぎによって体内から二酸化炭素が大量に排出されてしまうと、脳の延髄が二酸化炭素の不足を察知し、その排出をとめるために呼吸そのものを止める命令を出します。
すると、大脳皮質が呼吸がとめられることによる「息苦しさ」を異常として察知し、逆に呼吸を増加させる命令を出し、その悪循環によって過呼吸が悪化します。
過呼吸(過換気症候群)の正しい応急措置
過呼吸は、呼吸の速さと深さを意識し、呼吸が整えば自然に治まります。
呼吸を整えるためには、「ゆっくり吐く」ことを意識しましょう。
「吸う:吐く」が1:2程度の割合になるように、1回に10秒くらいかけてゆっくりと息を吐きます。
また、息を吐く前に1〜2秒程度息を止めるくらいが丁度いいようです。
介助する人は、患者さんの胸や背中をゆっくり押し、落ち着かせてあげることが大切です。
過呼吸(過換気症候群)の検査・診断・治療
過呼吸(過換気症候群)の発作時に動脈の血液を採取すると、アルカローシス、二酸化炭素分圧の低下、動脈血酸素分圧の上昇などがみられます。
類縁疾患として、不安神経症、パニック障害などがあるため、呼吸器内科、循環器科、精神科を受診することが必要な場合があります。
病院での治療は、肉体的・身体的疲労を回復するため、安静・休息とし、必要に応じて抗不安薬が処方されます。
40代以上で過呼吸(過換気症候群)になった場合、過呼吸が起きる前後に他の気になる症状や持病があるかどうかを確かめましょう。
救急の現場でも、単なる過呼吸だと思っていたら実は心筋梗塞が隠れていて対処が遅れてしまうことがあります。
苦しくて息が荒くなっているうちに、手足のしびれなどが出てくる場合です。このような二次性の過呼吸があることも覚えておきましょう。
まとめ
過呼吸の症状
過呼吸は、深く早い呼吸が繰り返されることによって血液中の二酸化炭素が不足し、手足や唇の痺れや呼吸困難、動悸、頭のふらつき、息苦しさ、眠気、激しい耳鳴りや悪寒といった症状が現れる病態です。
過呼吸の応急処置
過呼吸の場合、従来からよく聞く「紙袋を口に当てて呼吸させる」ことは医師以外はやらないこと。
家庭や職場では、患者さんの背中をゆっくりと押して落ち着かせ、「吸う:吐く」が1:2程度の割合になるように、1回に10秒くらいかけてゆっくりと息を吐かせます。
呼吸が整えば自然と過呼吸が治まってきます。
過呼吸の治療
10代・20代などの日常生活中に発症する過呼吸の原因の多くは精神的な不安です。
呼吸器内科、循環器科、精神科などを受診することになります。
40代以上で持病がある場合、過呼吸の裏に別の病気が隠れている場合があります。
呼吸器内科や循環器科の受診をおすすめします。10代・20代でも、40代以上でも過呼吸が何度も繰り返して起きる場合は一度医療機関で診察を受けましょう。