更新日:2017年10月06日
高カリウム血症とは
血液の中のカリウムの量が、なんらかの理由で正常範囲を上回ってしまっている状態を「高カリウム血症」といいます。
カリウムの値が高くなると命に関わることもあるため、点滴や内服などでカリウムを下げる処置を受ける必要があります。
カリウムとは
カリウムは、物体を形作る一番小さい単位である「元素」のひとつです。
体内では細胞内や細胞外の液体に溶けた状態で存在しています。
細胞内と細胞外の液体に含まれるカリウムのバランスは「98:2」となり、ほとんどが細胞内に存在する形でバランスが保たれています。
「細胞内液」と「細胞外液」のカリウム
人間の身体はおよそ60兆の細胞で形成され、皮膚の細胞、粘膜の細胞、臓器、血管、赤血球などの血球もすべて細胞でできています。
「細胞内」とは、細胞の中、細胞膜に囲まれた内側のことです。細胞の中の液体のことを細胞内液と言います。
それに対して、「細胞外液」というのは、大きく2つに分けられます。
- 細胞と細胞の間でクッションの役割をする「間質液」
- 血液の液体の部分である「血漿」(血液のうち赤血球、白血球、血小板を除いた液体)
全体液のうち、細胞内液と細胞外液の割合は以下のとおりです。
- 細胞内液・・・約67%
- 細胞外液(間質液)・・・約25%
- 細胞外液(血漿)・・・約8%
体液のうち血液(血漿)は約8%であり、細胞外のカリウムは全体の2%になります。したがって、血液の中に含まれるカリウムは、全身に含まれる量のわずか1%程度の量に調整されているのです。
余分なカリウムは腎臓から排泄される
血液中のカリウムは、体外から飲食物と一緒に取り込まれたり、体内の細胞から出てきたりすることによって増えます。
血液中のカリウムは血流によって全身の細胞や間質に運ばれますが、余分なカリウムのほとんどは、腎臓を介して尿として排泄されます。
したがって、健康な人の場合、血液中のカリウムが多少増えてしまっても、大きな問題にはなりません。実際、飲食物で取り込まれたカリウムの90%は尿として排泄されます。
ですが腎不全など腎臓の機能に問題がある場合には、腎臓からカリウムが排泄されず、血液の中にたまってしまいます。
この状態が続くと「高カリウム血症」となり、身体に変調をきたすのです。
低カリウム血症とは(参考)
高カリウム血症に対して、血液の中のカリウムが少なくなりすぎている状態のことを「低カリウム血症」といいます。
腎臓機能の障害により、カリウムを必要以上に排泄してしまうことや、カリウムを下げる薬(利尿薬やインスリンなど)を使うことなどが原因となります。
食事が原因で低カリウム血症になることは、多くはありませんが、飢餓状態や低栄養状態が続くことで、カリウムの摂取量が不足すると低カリウム血症になることもあります。
多飲多尿、食欲不振や吐き気などの症状が出てきますが、これを放置すると、徐々に筋肉に力が入らなくなり、手足に麻痺を引き起こします。最悪の場合は麻痺によって、自力で呼吸することができなくなることもあります。
高カリウム血症の検査
血液検査
血液検査により、血液中のカリウムの量が確認できます。カリウムは、検査結果表では「K」と表示されます。
カリウムの正常値は「3.5~4.9mEq/L」です。
この値を超えると以下のような危険が出てきます。
カリウムが高いときの危険性
- 3.5~4.9mEq/L ・・正常値
- 5mEq/L以上 ・・・高カリウム血症となる基準
- 6.5mEq/L以上 ・・不整脈や心停止などの危険性が高まる
- 7mEq/L以上 ・・・心室細動という致命的な不整脈や突然の心停止が起こる危険性が高まる
6.5mEq/Lを超えると、不整脈や心停止など命に関わる症状が出る危険性が高くなるため、すぐにでも処置や検査を始める必要があります。
また、7mEq/L以上のときは、心室細動という致命的な不整脈や突然の心停止が起こることがあり、とても危険な状態といえます。
心電図
12枚の電極を身体の各所に貼り、いろいろな方向から心臓の電気的な動きを観察することで、心臓がどのように動いているのか、どの位置にどの程度の異常があるのか、ということを簡単に知ることができます。
心電図の検査に痛みは伴わず、横になって安静にしていれば数分以内に終わります。
高カリウム血症の症状で一番怖いのが、不整脈や心停止など、心臓に関わる症状です。そのため、心電図の検査がとても大切です。
高カリウム血症の原因
食事でカリウムを摂りすぎる
カリウムが体内に取り込まれる一番大きな要因は食べ物です。
とくに、生野菜や果物には多くのカリウムが含まれるので、腎不全など腎機能に障害がある人は食べ過ぎに注意が必要です。
ですが、腎機能に問題がなければ、余分なカリウムは順調に排泄されていきます。健康な人が食べ過ぎだけで、高カリウム血症になることはまずありません。
薬の副作用
薬の中には、副作用としてカリウムが高くなってしまう作用を持つものも多くあります。これも、腎臓に問題がなければ大丈夫なのですが、持病のある人の腎機能は健康な人に比べて落ちやすいため、定期的にカリウムを検査する必要があります。
カリウムを高くする可能性のある薬など
高血圧や心不全の薬(利尿薬も含む)
- ACE阻害薬:テモカプリル(商品名エースコール)、イミダプリル(商品名タナトリル)、エナラプリル(商品名レニベース)など
- ARB(アンジオテンシンII受容体拮抗薬):ロサルタン(商品名ニューロタン)、カンデサルタン(商品名ブロプレス)、テルミサルタン(商品名ミカルディス)、オルメサルタン(商品名オルメテック)、イルベサルタン(商品名アバプロ、イルベタン)、アジルサルタン(商品名アジルバ)など
- β遮断薬、ジギタリス
- カリウム保持性利尿薬:トリアムテレン(商品名トリテレン)、アミロライドなど
- 抗アルドステロン薬:スピロノラクトン(商品名アルダクトン)、エプレレノン(商品名セララ)など
痛み止め
ロキソプロフェン(商品名ロキソニン)、ジクロフェナク(商品名ボルタレン)など
免疫抑制薬
シクロスポリン(商品名ネオーラル、サンディミュン)、タクロリムス(商品名プログラフ)など
抗菌薬
ST合剤(商品名バクタ)、ペンタミジン(商品名ベナンバックス)など
その他
輸血など
カリウムを高くするからといって、自己判断で薬を中断してしまうことはとても危険です。不安なときにはまず、処方してくれた医師に内服の内容を相談してみましょう。
また、血液検査の結果をみるときには、何を内服しているのか、という情報はとても大切です。初めての病院で受診する時には、お薬手帳などその時の内服薬がわかるものを、必ず持参するようにしましょう。
脱水
カリウムは主に尿から排泄されます。そのため、脱水状態になり尿が出ないと高カリウム血症になりやすくなります。
細胞の中からカリウムが出てきている
カリウムをたくさん含んでいる細胞が、病気などの理由で壊れてしまい、カリウムが血液中に流れ出てくることによっても、高カリウム血症が起こります。
悪性腫瘍(がん)細胞ではとくに白血病で細胞が壊れやすく、その他のがんでも化学療法後に細胞が壊れてしまい、高カリウム血症になってしまうことがあります。ほかに、筋肉が壊れてしまう横紋筋融解症など、特別な病気でも起こります。
また、高血糖やインスリン不足があると、細胞内からカリウムが血液中に出ていきやすくなり、高カリウム血症を起こしやすくなるため、糖尿病の人では、注意が必要です。
採血のやり方
病気以外の理由でカリウムの検査値が上がる理由として、採血方法の問題があります。
採血の際に、カリウムが本来の数値よりも高く出ることがあります。
これは採血に時間がかかったり陰圧を強くかけ過ぎたりした場合に、血球細胞の膜がこわれ、カリウムなどの成分が血液中に漏れてしまうためにおこります。この血球細胞が壊れてしまう現象を「溶血」といいます。
そして、血液中の細胞が壊れて、細胞の中のカリウムが血液中に流れ出してしまうために見かけ上、高カリウム血症と判定されることがあるのです。
溶血したことは検査をしているとすぐにわかるので、あまりに数値が上がりすぎてしまっている場合は、採血のやり直しになります。
高カリウム血症の症状
吐き気、下痢
高カリウム血症になると胃腸内の水分のバランスが狂ってしまうため、胃腸が正常に働きにくくなります。そのため、吐き気や下痢、嘔吐など消化器の症状があらわれやすくなります。
しびれ、力が入らない
カリウムは筋肉を動かす作用に関わっているので、手や足先のしびれから始まり、徐々に力が入らなくなります。物を握ったり、持ち上げたりする筋力が落ちてしまいます。
不整脈(動悸、胸苦しさ)
高カリウム血症の症状の中で、もっとも恐ろしいものです。余分なカリウムの作用で心臓が異常な動きをするためですが、自覚症状はないこともあります。
カリウムの値が高い人で、ドキドキする感じや、胸や息が苦しくなる、気が遠くなるような感じになるときは、不整脈が起こっているかもしれません。
重症な場合、そのような症状がなく、突然、心臓が止まってしまったり、致死的な不整脈が出て血圧が下がってしまったりして、意識がなくなってしまうこともあります。
そのため、身体の中のミネラルバランスの乱れにおいて、最も緊急性が高い異常が、この高カリウム血症であり、検査値に異常があると緊急対応が必要になります。
高カリウム血症の治療法
取り込むカリウムの量を減らす
まずは、食事で取り込むカリウムの量を減らします。生野菜、果物、海藻類、豆類などカリウムを多く含む食べ物を制限します。
また持病の治療に使っている薬の中に、カリウムを増やす作用のあるものは変更します。
カリウムを身体の外に排泄する。
利尿薬や、カリウム吸着剤を使ってカリウムを身体の外に出します。
アーガメイトゼリーなどのカリウム吸着剤は、腸内のカリウムをカルシウムやナトリウムなど、他のものに置き換えて身体の外に排泄する仕組みになっています。
カリウムを細胞内に戻す。
血液中のカリウムを細胞に取り込ませることで改善します。体外に排泄させるよりも素早く血中のカリウムを下げることができるので、点滴などを使ってよく行われます。
なかでもGI療法は、インスリンとグルコースを利用したもので、代表的な治療法です。
インスリンは糖分を血液から細胞内に取り込む働きをするホルモンですが、そのときにカリウムも一緒に細胞内に取り込みます。
この時にインスリンだけ点滴すると血糖が下がってしまうので、一緒にグルコースも混ぜて点滴します。そうすることで血糖を一定に保ったまま、カリウムだけを下げることができます。
時間が経つと再度カリウムが出てきますが、速効性が期待できるため、救急の現場ではよく用いられています。
透析
心停止や致死的な不整脈など、緊急性の高い症状が出ているとき、ほかの方法では改善が難しいときに行われます。
透析は、血液を血液浄化装置に取り込み、血液中の要らないものや有毒のものを除去してまた体内に戻します。すぐに余分なカリウムを取り去ることができるのですが、大量の血液を一気に身体から抜き、変化させて戻すので、身体に負担の大きい治療でもあります。
不整脈の予防
高カリウム血症自体の治療ではありませんが、不整脈を予防するためにカルシウム製剤の点滴を行うことがあります。
このことで、心臓がカリウムの影響を受けても不整脈を起こしにくくなります。効果が数時間しか続かないので、その間にカリウムを下げる治療を積極的に行います。
高カリウム血症の予防法
カリウムを上手に除去する
カリウムは水に溶ける性質があるので、野菜はなるべくたくさんのお湯に入れて、再沸騰するまで煮たり(煮こぼす)、豆類なら2度茹でたりすることでカリウムを減らすことができます。ただしこの方法でも、かぼちゃやとうもろこしはカリウムが残りやすいので注意が必要です。
同じ加熱でも、電子レンジでの加熱ではカリウムは減りません。電子レンジで加熱した後は、水にさらすと良いでしょう。
果物には多くのカリウムが含まれますが、中でもリンゴは比較的少ないことがわかっています。どうしても果物を食べたいときはリンゴを選ぶといいですが、限度もあるので食べ過ぎに注意しましょう。
水分を良くとる
水分制限がない場合には、脱水にならないようになるべく水分を摂るようにしましょう。1日1~2Lが目安ですが、夜間頻尿にならないよう夕方までに万遍なく飲むのがお勧めです。
また、アーガメイトゼリーなどのカリウム吸着剤の一部には、副作用で便秘がちになるものもあります。便秘の予防にも水分をたくさん取ると良いでしょう。
看護師からひとこと
カリウムは本来、身体にも腎臓にも良いものです。ごくごく健康なが、高カリウム血症を恐れることはありません。野菜でも茹でることで失われてしまう栄養はたくさんありますので、生野菜を積極的に食べることは大切です。
腎不全などで医師から「カリウムを制限しなさい」と忠告を受けた人に大切なことは、「正しい知識をもつ」ということです。どうすればカリウムが上手に除去できるのか、食べても大丈夫なものはどれで、どのぐらいの量なのかを理解しましょう。
カリウムをする方法について、栄養士の指導を受けられると一番良いですね。主治医や、お住まいの市区町村に利用できる指導サービスがないか、確認してみると良いでしょう。
[カテゴリ:腎臓]