更新日:2017年10月10日
腸の働きは第二の脳と言われるほど重要
最近、テレビ番組や雑誌の特集などで、腸のことがよく取り上げられるようになりました。腸の調子を整える「腸活」が注目を集めるなど、腸を取り巻く環境は一昔前とは一変しています。
これまで、腸と言えば胃や小腸で消化・吸収された食べ物の老廃物(すなわち便)の通り道、くらいのイメージしかないという方も多かったように思います。しかし、近年の研究によって、腸にはそれだけではない多くの働きがあることがわかってきました。
腸には、約1億個の神経細胞が存在すると言われており、その数は脳の約150億個に次いで2番目に多いものです。
このようなことから、腸は「セカンドブレイン(第二の脳)」と呼ばれており、近年は腸が心身に及ぼす影響について盛んに研究が行われています。
今回は、食後に多い腸の動きを中心に、その他のケースも含めてご紹介したいと思います。
食後に腸が動く原因とは?
食事をした後、腸のあたりがピクピクと小刻みに動いたり、モゾモゾと妙に感じたりすることはないでしょうか?妊娠の経験がある女性であれば、胎動によく似ていると感じる方も多いようですが、自分の意思に関係なく突然動くので、不安になる方も多い症状です。
食後またはそれ以外でも腸が動くことの原因としては、主に次のことが考えられます。
- 食後の腸の正常な働き
- 過敏性腸症候群によるもの
- ぜん動運動が活発すぎることによるもの
- 腸閉塞によるもの
- 必要以上に空気を吸っている
以下に一つずつ説明していきます。
腸が動くのは正常な働き
私達の体は、胃に食べ物が入ると胃壁が伸び、その反射として腸のぜん動運動が始まります。
ぜん動運動とは、食道から直腸までの消化器官が、筋肉の収縮を伝達していくことで食べ物を先に送り出すための運動です。このぜん動運動により、食道から胃、小腸を経て大腸に辿り着いた食べ物は、多くの栄養が吸収され便となって大腸内を移動しますが、この時、じゃばら状になった腸が波を打つように筋肉が動きます。
そのため、仰向けになるなどして下腹部の状態がよくわかるような体勢になっていると、ぜん動運動をしている腸の動きを感じたり、場合によっては目で見ることができたりする(腸が動いているのが、皮膚表面から見てわかる)ことがあります。
このように、食後に腸が動いても、腹痛や吐き気などの症状を伴ったり、下痢や便秘を起こしたりしていないのであれば、単に食べ物や消化液が腸内で移動しているだけに過ぎないかもしれません。
なお、腸の動きと同調して、ゴロゴロやギュルギュルといった音が鳴ることもありますが、これも腸内を食べ物や消化液が動いて起こる音であり、お腹の調子を崩していないのであれば特に問題はありません。
過敏性腸症候群によるもの
過敏性腸症候群とは、検査によって明らかな異常が認められないにも関わらず、下痢や便秘を繰り返すのが主な症状で、若い世代を中心に近年増えている病気です。
過敏性腸症候群には、下痢型、便秘型、混合型の他に、おならの回数が異常に増えてしまうガス型というものがあり、このガス型を患っている場合、ガスが腸内に常に溜まっている状態になるため、ガスが移動したり、ガスだまりが割れたりするたびに、ポコポコと腸が動くことがあります。
ガス型を患っている方の場合、おならの回数やにおいが気になってしまうことから、それがストレスとなり、より悪化しやすいと言われています。脳が強いストレスを感じることで自律神経が乱れ、その影響が腸に及んでしまうのです。
腸内環境の悪化が原因となることも
ストレス以外にも、悪玉菌優勢の腸内環境が原因のひとつということもわかってきています。
これは、腸内で増えた悪玉菌が小腸などに達することで、それを異物とみなしてぜん動運動を活発にして、排出しようとする働きで起こると考えられています。
肉食中心の食生活を送っている方は、野菜や果物といったビタミン・ミネラルを多く含む食べ物が不足しがちです。肉は消化器官で消化されにくいため、腸内に長く留まり腐敗しやすく、その結果、悪玉菌を増やす原因になってしまいます。
過敏性腸症候群の対処法
ストレスが原因の場合は、できるだけ解消することが大切です。映画を見る、友人と話すなど、ストレスの解消法は人それぞれにあると思います。自分なりのストレス解消法を見つけ、日頃よりストレス発散を意識して、実践しましょう。
過敏性腸症候群の中でも、特にガス型の人の場合は、おならのことをあまり考え過ぎないことが大切です。「おならは誰でもするもの」と大きく構えることも症状を緩和させるために必要なことです。
腸内環境を改善する
腸内環境を整えるには栄養バランスを重視した食生活を行うことが大切です。
中でも食物線維をしっかりとることで、腸内の善玉菌が増えると言われています。食物繊維には水溶性食物繊維(主に海藻類)、と不溶性食物繊維(サツマイモ、とうもろこし、きのこなど)の2種類があり、それらの摂取バランスが悪いと便秘を悪化させることがあります。
水溶性食物繊維は便を柔らかくし、不溶性食物繊維は腸の蠕動運動を促進させ腸の動きを活発にする効果があります。水溶性と不溶性のバランスは1:2がベストバランスと言われています。納豆、ゴボウ、オクラなどはベストバランスの食品になりますので摂取するよう心がけましょう。
なお、食物繊維の摂取は、場合によっては便秘を引き起こすこともあるため、体調に十分考慮して摂取するようにしましょう。
また、アルコールやたばこなどの刺激物や、コーヒー、紅茶などカフェインを含むものも悪玉菌を増やす恐れがあるので、控えるようにしましょう。
ぜん動運動が活発すぎる
腸のぜん動運動が鈍くなると便秘になりやすいというのは、よく知られていることですよね。そのため、ぜん動運動を活発にするための方法というのが、数多く紹介されています。
しかしその一方で、実はぜん動運動が活発になりすぎても、腸には著しい負担となってしまいます。
ぜん動運動が活発になるということは、それだけ腸が激しく動くということになり、それによって筋肉の疲労が蓄積し、腸が痙攣を起こしてしまうこともあります。
また、ぜん動運動が異常に活発になると、腸内を便が速く通過してしまうため、腸壁から水分の吸収が行われず、軟便や下痢になってしまいます。
食後に腸がよく動き、さらにその後下痢になるという方は、このようなぜん動運動の亢進が考えられます。
ぜん動運動が活発すぎる場合の対処法について
ぜん動運動は、自律神経によってコントロールされており、ぜん動運動を活発にするのは、リラックスをしている時に優位になる副交感神経と言われています。
このことから、交感神経が優位になっている仕事中や活動中は、便意はあまり起こらないのですが、ストレスなどによって自律神経が乱れるとぜん動運動の亢進が起こる場合があるのです。これを解決するには、体調を整え、ストレスを軽減し自律神経の働きを正常に戻すことが大切です。
なお、最近はぜん動運動を抑制する市販薬が販売されているため、下痢が続いてつらいという場合には、そのような薬を使用するのも一つの方法かもしれませんが、作用が強い分、慢性的に使用すると今度はひどい便秘になってしまう恐れがあります。薬を使用する場合は、あくまでも急を要する時に使用する程度に留めておいた方がよいでしょう。
腸閉塞によるもの
腸閉塞は、腸のある部分が狭くなることによって、便や消化液が溜まり過ぎて詰まってしまった状態を指します。
腸閉塞が起こる原因は様々で、腫瘍などによって腸管が塞がれてしまうことや、開腹手術後に隣り合う臓器と腸が癒着してしまうこと、さらには腸が何らかの理由でねじれてしまう腸捻転などが、主にあげられます。
腸閉塞になると、痩せている方の場合は腸が動くのが見えることや、腹部の膨満感をはじめ、吐き気や嘔吐などが起こりますが、「疝痛発作」と言って強い痛みが起こってはやわらぐのを繰り返すのが特徴的であるため、これらの症状がある時はすみやかに病院へ行くようにして下さい。
必要以上に空気を吸っている
空気を多く吸い込むと、それだけ腸に気体が溜まるためガスが発生しやすくなります。
中でも、本人も気付かないうちに多くの空気を飲みこんでしまう症状を「呑気症」と言い、強いストレスや緊張、不安が主な原因と言われています。また、早食いの方や奥歯を噛みしめる癖のある方も、無意識に空気を多く飲んでいる場合があります。呑気症があると、腸内のガスが増え、おなかが動く感覚が起こりやすくなります。
呑気症の対処法としては、早食いを止め、よく噛んで食べることが大切です。さらに、空気を一緒に吸いこみやすい麺類や、ガスを誘発するアルコールや炭酸飲料も控えるようにするのがよいでしょう。
また、原因がストレスであることが多いので、1人でのんびり音楽を聴くなどリラックスできる環境に身を置く時間を設けることも大切です。
なお、自宅にいる時におならを出来るだけ出しておくことも、お腹の張りが軽減されてストレスを減らすことができます。
看護師からひとこと
「第2の脳」と言われる腸を健康にたもつためにも、日々の生活習慣の改善はもちろんのこと、一年に一度は病院での検診をお勧めします。
まとめ
腸の働きは近年急速に解明されてきています。腸内環境を整えることは健康や美容の根源とも言えるものです。
食後に腸が動くのは正常な動きであり、多くの場合は心配ありませんが、下痢や痛み、おならがよく出るなどのことがある場合は、気をつけなければいけません。
ウォーキングや、ストレス解消、食生活の改善などにより、腸内環境を少しずつでも整えていきましょう。